本連載は、ZEBをはじめとする省エネ建築物の副次的効果の評価手法である「NEBs」(Non-Energy Benefits)についてご紹介しています。第1回では、NTTファシリティーズとデロイト トーマツがNEBs指標を開発した背景とその考え方、評価方法について解説しました。第2回となる本稿では、実際の事務所や庁舎におけるNEBs効果の発現状況や評価事例について解説します。
日本全国のZEB認証取得ビルに対し、ZEBの実現やワークプレースに関する施策で期待する効果を明らかにすることを目的に、既存の文献/資料/Webサイトなどからデータを収集し、調査しました。
調査対象は、ZEBリーディングオーナー登録のZEBをメインに民間企業の事務所/ビルや自治体の庁舎などを抽出し、ZEB種別(ZEB Ready〜ZEBに加え、ZEB Orientedも含む)や建物規模が均等になるように、合計55件(新築42件、改修13件)を選定しました。分析結果については、NEBsの指標で分類しています。
分析の結果、全体の傾向としてNEBs12指標のうち、人材価値の向上に関する効果や事業への貢献に関する効果となる「健康増進」「BCP/リスク回避」「広告宣伝」を企図しているケースが多いと判明しました。
新築/改修別でみると、新築は「健康増進」「知的生産性の向上」「地域貢献/ブランディング」などの効果を合わせて企図する事例が多い一方、改修では改修前に感じていた不具合や不便の改善につながる「健康増進」や「人材確保/定着」「環境認証/格付の取得」などを主眼に置いていることも多いと明らかになっています(図1)。
地方公共団体では、「BCP/リスク回避」「メンテナンス費削減」など、損失を減少させる効果への期待が高い結果となりました。民間企業と比べ、「知的生産性の向上」「人材確保/定着」など、人材価値の向上につながる効果への期待/訴求の割合が低い傾向にあります。職員の生産性が高まること、優秀な人材確保/採用が可能になること、職員の定着率が高まることは、地域や住民へのサービスの質向上にもつながると想定されます。地方公共団体の所有する建物のZEB化を進める上では、地域住民の理解獲得が重要となりますが、このような効果を訴求することも有用となるでしょう。
民間企業では、「知的生産性の向上」「広告宣伝」などの業績につながる効果への期待が多い結果となりましたが、「人材確保/定着」効果には言及されていないことも多く、執務環境の改善が「健康増進」「知的生産性の向上」のみならず、エンゲージメント向上への寄与、採用力の強化にもなると広く訴求していく必要があります(図2)。
他にZEB化と合わせて、ワークプレースに関する省エネ以外の施策が多い傾向でした。ZEB化した建物の約7割が、同時にワークプレース関連の施策も実施しています(図3)。多くの建物で、知的生産性の向上を期待した施策を実施しており、中でも「バイオフィリック」や「内装の木質化」といった取り組みが多くみられます(図4)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.