土砂災害のリスクは、2次元地図上のハザードマップの形で表示されることが一般的です。文献4では、土石流について、土石流の流動や土砂の堆積範囲を予測した結果を、仮想空間内でVR技術(動画)により、一目で理解できる試みを行っています。
また、VRデバイスを利用することで、いろいろな視点から複数の住民参加者が同時に土石流災害をリアルに体験できます。
トンネル掘削中に湧水が発生すると、トンネル切羽の崩壊や坑内の水没などが生じる危険性があります。
そこで、文献5では、トンネル掘削時に取得されるさまざまな情報のうち、「切羽湧水量」と「施工時地山調査結果」を仮想空間に再現し、リアルタイムに情報を更新することで、下図のようなモデルでシミュレーションにより、切羽湧水量を予測しています。デジタルツインを活用することで、3次元の地質構造をトンネルの掘削に伴って逐次更新したり、専門技術者以外の関係者にも理解を得られる形で結果を表示したりすることが実現します。
建設現場のDXでは今後、ロボット活用が切り札の一つになると予測されます。ロボットが自律的に建設現場の中を移動するには、何らかの形で自らの位置を知る必要があります。そのため、レーザースキャナーやカメラなどの計測結果から、自己位置を推定しながら、同時に周囲の環境地図作成を行う「SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)」と呼ばれる技術が取り入れられています。身近なところでは、家庭用のロボット掃除機やファミリーレストランの配膳ロボットなどにも用いられている技術です。
文献6では、建設現場での資材運搬ロボットの利用について検討しています。下図左が資材運搬ロボットです。下図右のUAVで取得した点群データを初期の地図とし、作業者が指示した箇所に自動で資材を運搬します。その際、単に資材を運搬するだけではなく、ロボットで計測された結果によって、橋脚の出来形の計測も同時に行うというパラレルワークの運用が試みられています。
このように、デジタルツインはロボットの効果的な運用の前提となりますが、ロボットによる計測をデジタルツインに反映することで、他の業務に役立てるなどの“一石二鳥”の活用が見込めます。
デジタルツインは、世界的にも、建設産業を飛躍的に進化させる大きなうねりになりつつあります。現実空間を仮想空間に再現した3次元モデルで、これまで肉眼では見えなかった部分でも、誰にでも分かりやすい可視化や高精度のシミュレーションが実現されつつあり、作業ロボットの自律的な運用なども可能になってきています。
これまでの土木工学では、2次元の図面や地図から完成形や状況を考えたり判断したりしていました。しかし、デジタルツインによって、現実と同様の3次元データを扱えるようになることで、土木工学も全く新しい姿に変わっていくことが期待されます。
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