既に建設現場では、作業日報、朝礼などのさまざまな業務用アプリケーションが導入されており、一見するとデジタル化が進んでいる印象を覚える。ただし、小島氏は、それでは不十分だと主張する。現場で使用されているITソリューションは、それぞれの業務に特化しているものが多く、アプリ間、言い換えれば工程間の実用的なデータ連携ができていないからだ。
各アプリが部分最適化されている弊害以外にも、工程表から作業日報まで、各工程や業務に使われるデータの粒度が異なることも連携を妨げる要因になっている。データの粒度とは、情報の細かさのこと。工事全体の大きな流れをまとめた工程表と、日々の作業を記した作業日報とを比べれば、自ずと後者の情報の方がより詳細になる。この粒度の違いが、データ連携を難しくしていると小島氏は続ける。
そこで今回の協業では、各工程で扱われている工程管理にかかわるデータの粒度を調整しながら、実用的なデータ連携を可能にするロジックを開発し、工程表から作業日報までのアプリも相互連携させ、最終的には「施工管理業務のDX」実現を目標としている。使用するシステムは、NTTドコモと竹中工務店がスクラッチ開発したものがベースになる。
3社の役割としては、NTTコミュニケーションズは、他業界でのDX成功事例、情報通信に関するノウハウや知見を提供し、現場利用が定着化するシステムをアジャイルで構築。竹中工務店と清水建設は、建築現場の知見やノウハウの提供と、自社現場での実装トライアルを通して課題の洗い出しなどを行う。また、清水建設は、日本建設業連合会が作成した建築工事の適正工期算定プログラムとの連携も検討する。
小島氏は、施工管理のデジタル化で得られる効果は3つあると強調する。そのうちの1つは、「データ連携による生産性の向上」。データ連携によって、重複入力や転記誤りによる手配ミスを防げるようになる。工程データに紐(ひも)づくかたちで、労務、材料、施工スペース、建機などの現場のリソースに関わるデータを利用することで、工程計画の精度向上につながる。「将来は、工程表の作成、リソース手配、作業指示などを半自動化したい」(小島氏)。
2つ目は、「工程関連データの蓄積とその活用」。蓄積されたデータを活用することで、リソースに関する生産性指標が数値で分かり、現場の効率性が可視化される。こうしたデータは、研究レベルで検討が進む、工程シミュレーション、工程の時間軸を採り入れた4DのBIM、工程表の自動生成、建設ロボット連携などの先端技術を実務レベルで活用するための基盤となることも期待されている。
3つ目は、「工程情報の標準化」。建設業界では図面と工程が重要となり、BIM活用による図面の標準化が進む一方で、工程や作業の情報の標準化は遅れている。そのため、協業を通じて、工程情報の標準化を図っていく。
今後の展望では、まずは3社でワーキンググループを立ち上げ、工程管理のデータ連携について検討し、工程管理業務プロセス変革を進める。ゆくゆくは各種アプリを利用することで、施工管理業務の総労働時間の3割削減を見込む。施工管理の各アプリはパッケージ化するが、2023年度内に開発を終えたものから順次、NTTコミュニケーションズが外販する予定だ。
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