下図左のようなモルタル吹き付け法面の変状の浮きでは、目視での検出が困難なため、一般には打音検査により確認しています。しかし、高所で人が打音検査を行うことは困難を極めます。
そこで、「浮き部」と「健全部」で、熱容量に差がある特徴を生かして、無人航空機に搭載した赤外線カメラで取得した赤外線画像で、浮きの検出を行っています。その結果、下図右のような浮きや異物の検出が深層学習で試行されています。このように、通常の可視画像に加えて、赤外線画像などのドローンによるセンシング情報を用いることで、より高度な点検診断が行えるようになります。
さらに言えばドローンに“自律飛行”を導入することで、さらなる省力化や生産性向上が見込めます。なかでも、災害現場など操縦者も近づけないような状況では、ドローンの無人飛行という真価が発揮されます。ドローンの自律飛行では、自らの飛行位置を認識することがカギです。自己位置推定技術には以下に列挙する技術があり、それぞれメリットやデメリットがあるため、飛行環境などに合わせて最適なものを選定しています。
GNSSからの位置情報をUAVに搭載した小型で廉価なセンサーで受信して利用する方法
移動体の自己位置推定と3次元の空間地図構築を同時に行う方法
ドローン(UAV)にプリズムを装着して飛行させ、地上のトータルステーションで飛行位置を計測する方法
2機のUAVを用いて、1機目はGNSS測位が正常に受信できる上空に、2機目は非GNSS環境下にそれぞれ同時飛行させ、1機目の光学追跡で2機目の位置情報を推定する方法
飛行ルート上に配置したARマーカーやQRコードなどの基準点をドローン(UAV)に搭載されたカメラで読みとる方法
文献4の「UAVの自律航行と空撮画像を活用したダム堤体点検の効率化・高度化に関する研究」※4では、GNSS航法は、山間域の谷間に位置するダムでは衛星補足数が少なく、堤体のような高い構造物付近では電波反射などの影響があるという問題があるとし、一方のSLAM航法は、比較的均質な外観のダム堤体では特徴点を消失しないように近接飛行する必要があり、効率が低いことなどを理由に、TS航法を選定しています。トータルステーションは自己位置も計測するため、画像データに付与された位置情報を活用して、3次元データへの変換/復元も高い精度で実現しています(下図)。
また、ダムでは堤体の損傷画像が蓄積されておらず、学習に利用できるデータが少ないことから、正常状態(平常)の概念をAIが学習し、そこから変化(異常)があった場合の情報を検出する「教師なし学習」が試みられています。下図のように実際の損傷画像から健全な状態の画像を再構築し、差分により損傷を抽出しています。
ドローンはAIと組み合わせたり、自律飛行技術を採り入れたりすることで、多様で高度な利活用ができるようになります。関連技術も現在は、急速に進展しており、さらなる応用の拡大が期待されます。
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