また、下の図のように、セマンティックセグメンテーションに先立ってバウンディングボックスによる物体検出で損傷を検知した後に、そのバウンディングボックス内のみにセマンティックセグメンテーションを適用するという2段階の方法で精度を高める試みもなされています。考えてみると、人間も、損傷の大体の場所を見つけてから、細かく見ているようにも思います。このように、問題に適した形で、異なる手法を組み合わせることによって、新たなAI方法を考案していくこともできます。
他にも、セマンティックセグメンテーションを2段階で用いる研究もあります。下の写真は橋梁(きょうりょう)の損傷写真ですが、上の部分が床版で、下の部分が橋台になっていて、横に倒れた感じで撮影されています。排水管が床版に設置されているのが分かります。
人間であれば、どの部分がどの部材であるかを認識して、実際の上下方向が写真では左右になっているということを理解してから、損傷を探すことができます。一方、AIでは、左上の橋梁の損傷写真に対して、直接セマンティックセグメンテーションを適用してひび割れを検出しようとすると(左下)、床版以外の部分の継ぎ目や汚れなどを誤検出してしまいます。
そこで、人間に倣って、最初にセマンティックセグメンテーションで床版を抽出してから(右上)、抽出された床版に対してひび割れを判別するセマンティックセグメンテーションを適用した結果が右下です。床版を事前に検出しておくことで、誤検出を減らすことができています。このように、セマンティックセグメンテーションを、対象別・目的別に段階を追って適用することで、より高い精度が実現されています。AIの適用方法についても、応用や人間の認識の方法を考えながら工夫していくことで、より良い結果につなげていくことができることが分かります。
損傷・ひび割れ検出は、土木分野での基礎的ながら重要なユースケースですが、AIの技術としてもまだまだ改善の余地が大きい課題です。より専門家に近い判断ができるAIの開発が期待されます。また、研究開発が進むことで、人間を超える効率や精度で、損傷の寸法などの定量的な評価を行うことのできるAIも実現可能になっていくでしょう。
当委員会のHPでも、「教材・チュートリアル」の1つとして、セマンティックセグメンテーションによるひび割れの検出プログラムを公開しています※4。ぜひ、皆さんもトライしていただければと思います。
※4 土木学会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会Webサイト「コンクリートひび割れ検出」/土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会
★連載バックナンバー:
『“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト』
■第3回:AIを土木へ活用していくための3つの応用法、現場業務DXまでの道のり
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