ここ数年、国が旗振り役となって推進しているi-Constructionの進捗により、土木分野でのAI活用が進んでいます。本連載では、「土木学会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会」で副委員長を務める阿部雅人氏が、AIをどのように使いこなしていくべきかという観点から、最新の研究論文をもとに、今後の課題や将来像について考えていきます。
現在は、“第3次AIブーム”と言われています。1956年に開催されたダートマス会議で「人工知能(AI)」という言葉が世に登場して以来、3回目にあたります。これまでのAIブームの時代と特徴を整理すると、下記のようになります。
第1次ブーム | 1950年代後半〜1960年代 | 探索と推論 |
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第2次ブーム | 1980年代 | 知識表現 |
第3次ブーム | 2010年代〜 | 機械学習 |
第1次ブームでは、探索や推論が可能となって、数学の定理証明や簡単なゲームのような特定の問題に対して、コンピュータが答えを示すことができるようになりました。当時としては画期的なことでしたが、この段階では、複雑な現実の問題を解くまでには至りませんでした。
1980年代の第2次ブームは、「エキスパートシステム」が登場し、より現実的な問題が解けるようになりました。知識を「もし(if)………ならば(then)………」というようなルールで表現して、それを基に推論することで結論を出すものです。このように、エキスパートシステムは、「知識ベース」と「推論エンジン」からできています。
ただ、ベースとなる知識自体は、人間が作らなければなりません。人間には、言葉にならない暗黙に持っている知識「暗黙知」というものもあり、それをルールとして表現することが困難ですし、また、幅広い問題に適用しようとすると、限りなく多くの知識が必要になります。そのため、あらゆる問題に応じるわけにはいきませんでしたが、ある程度問題が限定される専門的な問題には有効です。実際に土木研究所では現在、エキスパートシステムをベースにした橋の診断の研究が行われています※。
※ 「道路橋メンテナンスサイクルへのAI導入−システム構築に必要なこと−」西川和廣著/AI・データサイエンス論文集1巻J1号p1〜8/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2020年
それに対して、第3次ブームでは、多くの事例を学習することで、自ら特徴量を習得する「機械学習」が現れました。筆者は、その前の第2次ブームの頃に学生でしたが、AIの授業で、ルールだけでは犬と猫を見分けるのはとても難しいということを習いました。どちらも耳も2つですし、足も4つです。いろいろな特徴をルール化してみても、犬みたいな猫とか猫みたいな犬とか例外が必ず出てきます。
その点、機械学習では、犬と猫の写真をたくさん見せることで、AIが自ら画像の特徴量を見い出し、犬と猫を見分けることができるようになりました。それを見て、「全く新しいAIの時代が到来したんだ」と感動したものです。人間も、犬と猫の違いを理詰めで考えて認識しているわけではなく、ある程度の数を見て、それで自然と犬と猫を区別しているのだと思いますから、AIの方法論も人間に少しは近づいたと言えるかもしれません。
とくに、2015年から2016年にかけての1年間は、囲碁AI「AlphaGo」がトッププロの囲碁棋士を破ったり、画像認識でも人間よりAIの方が間違いが少なくなったりなど、部分的には人間を上回る進化を遂げるに至りました。自動翻訳を見ても、その進歩や性能の高さは驚くばかりです。
それでは、実際に土木分野のAI活用でどんなことができるのでしょうか。橋の画像を例にとってみてみましょう。
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