建設業界がデジタル技術で新型コロナを克服するための道筋、IDC Japanの独自レポート調査からvsCOVID-19(2/5 ページ)

» 2021年08月11日 06時29分 公開

「フューチャーエンタープライズ」を目指すことが“ネクストノーマル”の焦点に

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う経済の混乱に直面したアジア太平洋地域の建設業界では、当初は事業継続をなんとか成就させることに注力せざるを得ない状況からスタートした。やがて、景気の減速によるコストの最適化を経て、いち早く立ち直るための事業回復力やビジネスレジリエンシーが事業の焦点となり、成長への回帰を目指してどのようなテクノロジーに投資をするのか、目標が明確な投資計画を各社とも持つようになる。そして、さまざまな想定外の危機的な事業環境変化を織り込んだ“ネクストノーマル”に対応するために、迅速に対応して体制を変化し、そのためのテクノロジーに投資を行っていく「フューチャーエンタープライズ(Future Enterprise)」を目指すことが事業の主眼となっていく。

 フューチャーエンタープライズとは、想定外の変化が間断なく起こるネクストノーマル環境を勝ち抜くために、目まぐるしく変わる外部環境へ迅速に対応して新たな成長を実現し、デジタル技術を活用して組織のあらゆる側面を、未来へとシフトする能力を備えた企業を指す。対症療法的に対処することしかできない企業になるのか、それとも柔軟に回復できるような企業になるのか、フューチャーエンタープライズの分かれ目は、デジタル技術の各種ソリューションを、どのようにうまく使いこなしていくことができるかどうかがポイントとなる。

回復競争―いかに落ち込みカーブをフラットにできるか 出典:IDC Japan

 回復までの事業継続、コストの最適化、事業回復力、目標が明確な投資、フューチャーエンタープライズの5段階を、アジア太平洋地域の建設業各社に当てはめてみると、国別に差はなく、おおよそ50%の企業が「目標が明確な投資」から「フューチャーエンタープライズ」までが事業回復の重点となっている。5段階を俯瞰(ふかん)して、実際の技術投資プロジェクト、どういうテクノロジーに投資しているのかという設問で各企業に単一で回答してもらい、「反応」「適応」「加速」の3つのフェーズに分類した。

アジア太平洋地域(APIJ)の建設会社のCOVID-19への対処についての国別検証 出典:IDC Japan

 「反応」のフェーズでは、「オペレーションコストを削減するテクノロジープロジェクト」や「コロナウイルスによって実際に生じた危機に対応するテクノロジープロジェクト」の回答が多くなる。「適応」では、「パンデミック中に弱みとして顕在化した分野に対処するプロジェクト」や「新型コロナウイルスのパンデミックによって生じた新たなオペレーション上の要件に対応するプロジェクト」が増加。「加速」では、これまでとは全く違った次元の投資がテーマとなり、「マーケットシェアの獲得に役立つプロジェクト」や「革新的なビジネスモデルを導入するプロジェクト」となった。

アジア太平洋地域(APIJ)の建設会社における危機から回復への過程 出典:IDC Japan

「反応」フェーズで注目された従業員エンゲージメント

 現在、建設会社の従業員は43%が在宅勤務を行っているといわれる。ワクチン接種後は、在宅勤務の比率は32%とやや低下することが予測されるものの、パンデミック前よりも高く、在宅勤務がある程度定着するとされる。

 こうした勤務形態が変化する中で、「反応」のフェーズにある建設会社は、新型コロナウイルス感染症に対して無防備な状態にあり、事業に生じた影響にいまだに対処している。こうした企業がどのようなテクノロジーに投資したか、または投資すべきと考えたかの設問に対する回答のトップ3は、アジア太平洋地域全体では、「ビデオ会議アプリケーション」「専用の従業員コミュニケーションや接触者追跡を目的とする健康/セキュリティアプリケーション」「従業員エンゲージメント」となった。この他にも下位にある「電子フォーム」や「電子署名ソフトウェア」も含め、おおよそ30%程度の回答があった。

 とくに日本では、「従業員エンゲージメント」が最多で、感染拡大が起きた初期には、従業員のメンタルやモチベーションをサポートする従業員エンゲージメントやソリューションが注目を集め、導入が進んだことが想像できる。

反応フェーズ:テクノロジー投資のトップ3 出典:IDC Japan

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