ここまでの調査結果を踏まえたIDC Japanの提言をまとめてみた。ほとんどの日本の建設業界の企業は、「適応」から「加速」までのフェーズにあるという前提で考えると、「適応」のフェーズでは、「ビジネスレジリエンシー」の強化がポイントとなる。これからも、多様な変化や財務的に負の影響を与えるクライシスは起こるのは間違いない。そのとき、急ごしらえで危機に対処するのではなくて、あらゆる状況でも柔軟に対処できるように、デジタル投資を今から行い、建設業界の課題を解決するハイブリッドワークフォースのサポートを強化しておくことが、「ビジネスレジリエンシー」の強化の鍵を握るといえよう。
さらに「加速」のフェーズでは、「ターゲットに向けた成長のための投資」がポイントとなる。具体的には、「デジタル建設ソリューションの採用促進」として、試験と試運転、運営とメンテナンス、設計の各段階で用いるデジタル建設ソリューション、BIMやコラボレーションツール、生産性アプリケーションなどに注力していくべきである。日本の場合は、設計のようなプリコンストラクションの段階で使っていくことが重要で、ネクストノーマルという間断なく変化が起こる状態で、変化に強くなる企業となることが、ビジネスの将来性を確立することが可能となる。
最後に、デジタルレジリエンシーの構築で重要なのは、全体最適の追求だ。現場が優先される建築/土木の分野では、「設計」「研究開発」「建設現場」などの各部門で個別最適を追求してしまうと、情報を統合しようとした際に連携が進まない事態となり、結果として全体最適が実現しない可能性が高い。
そこで、単一の戦略や統合されたプラットフォームのベストプラクティスを現場にDXとして組み込んでいく。そして、展開する上でデジタル投資の成果を測定できるように「デジタルKPI」を設定し、DXを行う上でITベンダーやテクノロジーベンダーに丸投げするのではなく、社内のデジタルスキルを優先した「人材ポートフォリオの再調整」を行う。デジタルレジリエンシーの構築には、こうした観点とフローで進めていくことが、成功のポイントとなるとし、敷田氏の講演は終了した。
オートデスク コンストラクションソリューションズセールスマネジャー 大西正明氏は、「Road to Recovery 建設業界における新しい可能性」と題し、新型コロナウイルス感染症の拡大は改革の触媒となったのではないかという視点で、建設業界のチャレンジとその課題の背景、リモートワークを支える技術、それらに対して、オートデスクが提供できる貢献という視点でプレゼンテーションを行った。ここからは、大西氏のプレゼンテーションの概要を紹介していく。
建設業界で一番大変なのは、1つのプロジェクトを作り上げるまでに、社内外の多くの関係者が複雑な多層構造の中で関わっているということだ。さらに関係者の間を、大量の情報が行き交う。日本では着工後の設計変更が多いという特殊事情もあり、図面の枚数も膨大となり、帳票類も大量に生じ、建設現場では安全確認や検査などの各種マニュアルに加え、さまざまな資材のサンプルなども参照しなくてはならない。
コロナ禍では、こうした大量の情報共有や確認のために、多くの関係者が現場に集まって議論をするということが物理的にできなくなってしまった。いかにして正しい情報にアクセスし、同期していくか、これは各社が直面した大きなチャレンジだったのではないだろうか。
感染症拡大を契機に注目された情報共有だが、効率化することができれば、働き方改革や職場の魅力づくりにもつながり、企業全体の生産性向上が実現するのは間違いない。
2015年にマッキンゼーが公表したデジタル化率の業界別ランキングでは、建設業界は農業に次いで下から2番目だった。それから6年経過した2021年までに、各社ともデジタル施策を進めてきた。
例えば、設計の現場ではBIM化が進行し、施工現場では各種デジタルデバイスが導入され、タブレットを使用して紙に頼らずに図面を見ることができるようになった。現場で指摘事項を追う際には、カメラで撮影した画像をSNSやメールなどで関係者と共有するといったことが日常でみられるようになった。
こうした急速なデジタルシフトの動きにあって、課題も浮かび上がってきた。全体でコラボレーションができているかという問題だ。各業務をこなすため、それぞれ専用のデバイスを採り入れ、その上で、個別のアプリケーションが稼働している。ところが、これらのデバイスやアプリケーションが、必ずしもお互いに同期を取り合うようにはなっていないということだ。つまり個別最適の業務アプリが乱立している状態になっているということだ。
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