文化財保護法が一部改正され、以前は政府が行っていた歴史的建造物の管理が都道府県や市町村に委ねられることになった。実現には、歴史的建造物に関する管理や活用を市民参加型にする必要がある。レーザースキャナーや写真データを活用した歴史的建造物のデータ化は、将来的な建造物の修繕やバリアフリー化などの情報を共有化するのに有効だ。また、BIMとの連携で、調査や修繕の管理・立案などにも役立つ。
オートデスクは、2020年11月17〜20日の4日間にわたり、CAD/BIMに関するテクノロジーイベント「Autodesk University 2020」をオンラインで開催した。会期中のセッションから、「クイックスキャンによる歴史的建造物の保存活用に向けた試み〜カスタマーセントリックな設計を目指したRevitデータのVRなどへの展開」と題する講演を紹介する。
本講演は、京都女子大学 家政学部 教授の北尾靖雅氏(一級建築士)、シュルード設計 代表取締役 安達基朗氏、アーキ・キューブ 代表取締役 大石佳知氏の3人が順に登場し、歴史的建造物の保存・活用に向けた新しいテクノロジーを解説した。
講演は、新技術が必要となった背景を北尾氏が振り返るところからスタートした。北尾氏は、2018年に国会で成立した“文化財保護法”の一部改正がその理由だと語る。この改正には、文化財の保存活用地域計画を作成することが盛り込まれている。これまで政府が行っていた文化財に関する業務を、都道府県や市町村が担うとする内容となっている。
そのため、自治体が地域計画を策定する際は、地域住民からの意見を反映することに努める必要が生じる。また、文化財所有者の相談に応じたり、調査研究を行う民間団体などを文化財保存活用支援団体として指定したりすることも規定されている。北尾氏は、これらを通じた市民参加が、文化財保護法改正の重要な点だと指摘する。
文化財の保存活用には、文化財の価値付、修理管理、ガイダンス施設整備など多岐にわたる。そして、これらに対する市民の活動が欠かせない要素となる。その際にデジタル技術は、市民参加を促す点で大きな役割を担う。
もともと文化財は、寺社仏閣のような記念性の高い建造物が指定されてきた。しかし、1960年代頃からは、民家や民家が集合した歴史的市街地を建築の集合体(重要伝統的建造物群保存地区)として扱うようになった。時代がさらに下って1990年代には、日本各地で近代産業遺産の調査が行われた。結果、現在では約4万5000件の近代産業遺産が存在するといわれている。
近代産業遺産も歴史的建造物であり、文化遺産なので、歴史性を損なわずに保存されることが求められる。と同時に、安全性を担保して一般に公開し、活用することも不可欠となる。ただ、北尾氏はこの保存や活用には問題点があるとする。
その問題とは、近代産業遺産が動産と不動産に分かれている点にある。動産と不動産を一体的に調査するには、事前に費用を準備する必要がある。この点、近代産業遺産は大規模な物件が多く、多額の費用が掛かってしまう。
加えて、調査の範囲や日程、目指す保存の水準などでも不確定な要素が多い。調査と企画構想の間に、矛盾や隘路(あいろ)が存在する場合もある。そのため、調査予算の企画そのものが成立しないことがあるという。講演のキーワード“クイックスキャン”は、こうした現状の問題点を踏まえ、文化財の保存活用計画を進行させるための概念となっている。
クイックスキャンは、デジタル測量で得られた点群データや測量写真のデータをベースとしている。クイックスキャンは、このデータをRevitなどと連携して分析し、既存建築物の空間的な可能性をスピーディに調査するのに役立つ。
事業関係者は、クイックスキャンによって対象建築物の空間イメージを容易に共有できる。北尾氏は、クイックスキャンを「調査から企画構想に至る過程で、一貫した作業として測量事務所と建築事務所が連携して行う作業」と位置付けているという。
講演では事例として、京都府舞鶴市にある「赤レンガパーク」内にある旧海軍の需品庫に対する調査活動について紹介した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.