国内の建築文化を取り巻く環境としては、風土に合った使いやすい素材である木を使っていこうという自然な流れがベースにあり、一方で都市部においては主に防火上の観点から規制する状況が長らく続きました。
しかし、昭和の日本は、高度経済成長という未曾有の好景気でしたが、対日債務が大きくなった米国で輸出を強化する政策が立案され、日本国内の住宅マーケットへの進出が求められてました。
そして、国内の高すぎる耐火性能要件を下げるように要求されるという外圧がたびたびありました。その結果、一部の木造の建築規制内容が緩和され、後の準耐火構造という規定が生まれ、木造で建築できる規模や場所が徐々に拡大してきました。
しかしながら、何度も法改正を通じて緩和規定を設けられ、その際に現状との整合性などを配慮して法改正を行った結果、防耐火の関連規定は非常に複雑な状況になっています。
また、第4回の連載で主に書きましたが、近年は世界的には気候変動の観点から脱コンクリートの取り組みが増えており、これを受けて日本でも木造を推進していこうという動きが起こっています。政府は、地方自治体に努力義務を課す木材利用推進法を定めましたが、2021年4月に林野庁では、独自に新農林水産省木材利用推進計画を改訂し、公共の建築物は原則として全て木造化するとしました。
さらに、耐火建築物についても積極的に木質化を図ることとし、木質化推進の方向に大きく歩みを進めたかたちとなっています。この公共建築物木材利用推進法も2021年中には民間建築物にも対象を広げる動きが出てきています。
このように、地理的・歴史的に俯瞰して日本の都市や社会の成り立ちを理解した上で、進化の道を資源上や技術上の観点から考えると、高層木造文化を生み出す事は十分可能であったにもかかわらず、なぜ世界的な潮流である高層木造や耐火木造という方向に独力で進んで来なかったのか、といったことへの理由が垣間見えて来るかと思います。
今後、我々は、現在地を認識した上でどのように未来を描き、実現していけば良いのかということについて思いを馳(は)せることもできます。
そこで次回は、耐火建築物、準耐火建築物といった、これまではRC造やS造が主に担っていた構造が、どこまで木造で可能になってきたかということについて最新の事例を交えて解説していきたいと思います。
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