木質構造建築物の多様性と可能性:CLTの導入によって拓かれる未来木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(3)(1/3 ページ)

本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第3回となる今回は、CLTの活用事例を採り上げる。

» 2021年05月10日 10時00分 公開

 連載の第2回目は、木質材料をどのように捉えて、どのように建築に生かしていったかという観点から2つの事例を紹介しました。続く第3回目では、近年国内で新たな木質系建築材料として注目を集めているCLTを中心に、作例を通して解説します。

民間クライアントのプロジェクトでCLTが採用された国内初の建築物

 CLTを用いる際にまず考えるべきことは、いかにしてCLTの良さを引き出す設計とするかだと思います。プロジェクトを進行する上で、現在はまだCLTを使用した場合は、同じ性能を求める場合は他の木質材料を用いた構法と比較すると、材料費や加工費などを含めるとコスト高になってしまいます。その分CLTを採用するにあたっては意匠的・構造的な観点から、CLTだからこそ出せる良さが求められます。

 CLT最大の魅力は、“大判で厚みがある木質材料”であるという点です。これまでのプロジェクトにおいても、これをどう生かせばいいのかを考えて設計してきました。

 例えば、その剛性を生かして、“床プラットフォーム”として使用することで、梁(はり)の一方だけを固定している「キャンチレバー」の跳ね出し床や大スパンを実現した作例が、2014年に竣工した店舗併用住宅の「くりばやし整骨院」(写真1-1,2)です。ここでは、1方向2150ミリの跳ね出しを実現しました。これはCLTが日本に導入された最初期に建てられた建築物の1つで、民間クライアントからの依頼で進められたプロジェクトとしてCLTが採用された国内初となる建築物です。

写真1-1 「くりばやし整骨院」の外観
写真1-2 「くりばやし整骨院」の内観、構造CLTを現しに用いた天井仕上げ

 くりばやし整骨院の敷地は、およそ100平方メートルで、南側に16メートルの道路(片側二車線歩道付)が接道し、西側には4メートルの道路が接している条件でした。1階に整骨院、2階に住居部分、外部になるべく来店用の駐車場を設けることが要求されました。また、本敷地が準防火地域内であることや建築コスト上の制約から、規模・構造は木質構造2階建て(プラス塔屋階)で設計を進めることとなりました。さらに、建築の形態は、駐車場台数を確保しつつ、2階の住居面積を確保するために床跳ね出し形式を採用しました。

 2階の床跳ね出しは、集成材の梁あるいはツーバイ材などを架(か)けて作る軸組構法とするか、またはCLTや厚物合板、集成材を敷き並べてマッシブホルツ床スラブとする構法にするかで検討を行いました。

 軸組のみで構成するメリットは、既存の技術や工法に対応している点があります。しかし、必要な要求スパンを満たそうとすると、通常流通している材のサイズを超え、また梁のせい(高さ)も大きくなってしまうため、天井高を確保しつつスパンを実現するとなると、階高がかなり上がってしまうというデメリットが生じることも分かりました。

 一方、床スラブをマッシブホルツで構成する場合は、構法的に明快となります。床をシンプルに構築しつつ階高を抑えられ、かつその材料特性上、大スパンや床持ち出しが可能です。大スパンと床持ち出し形式が条件だったくりばやし整骨院では、CLTを用いた床スラブによる構法が適していたため採用しました。

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