本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新事例、木材を用いた構法などを紹介する。今回は海外の高層木造建築物を採り上げる。
木質系の素材に関して、これまでの連載では、国内の木造建築がどのように変化・進化してきたかということを中心に紹介してきました。
一方、世界に目を向けると、近年の欧米社会では、グローバルの視点から環境への注目度が高まり、その中でコンクリートから木への回帰が起こっています。また、EUにおいては国境炭素税の提案を行っており、排出量取引で対象とするものの中には建築材料である鉄鋼やセメントなども含まれています。つまり、これからはさらに、木造や木の流通というものが活発になってくる方向に世界は向かっていると言えます。
そこで、今までは鉄骨や鉄筋コンクリートによる構造物の独壇場であった「高層建築物」でも木造のプロジェクトが増えてきています。実際に現在、多数の高層木造建築物が世界各地で計画されています。
こういった状況を踏まえて、今回は、高層木造の世界がどのように変化しているかを海外の最新事例を通して述べていきたいと思います。
2017年には、カナダのバンクーバーで、「Brock Commons Tallwood House(ブロックコモンズ トールウッド ハウス)」という18階建ての高層建築物が木造とRC造(エレベーターシャフト部)のハイブリッド構造で実現し、世界を驚かせました。
Brock Commons Tallwood Houseは、ブリティッシュコロンビア大学の構内に建てられた高層の学生寮で、高さは53.5メートルあり、延べ床面積は1万5115平方メートルです。この開発プロジェクトは、木材への炭素固定を意識して地球環境保全を狙ったコンペティションがきっかけでスタートし、建設当初は木質構造によって建てられた建築物で、高さ世界一を誇っていました。
ここで用いられた木質化の技法は「マスティンバー(あるいはマッシブホルツ)」と呼ばれています。マスティンバーとは、連載の第3回目で触れたCLT(Cross Laminated Timber)や第1回目で説明した(中大断面)集成材、製材をクギやダボによって接合したブレットシュタッペル構法によるNLT(Nail-Laminated Timber)、DLT(Dowel Laminated Timber)などを用いるもので、木を束ねて用いる手法のことです。
そして、ブロックコモンズの高さを上回ったのがノルウェーのブルムンダルという都市に建設された「Mjøstårnet(ミョーストーネット)」と呼ばれる木造の複合用途建築物です。
Mjøstårnetは、木質ハイブリッド構造の地上18階建て、高さが約85.4メートルで、2019年3月に竣工しました。このプロジェクトでも、中大断面集成材をはじめ、CLTやLVLといったマスティンバーの技法が巧みに使用されました。利用された素材は、近隣にある森林から伐採された木材によって製造されたもので、大きく環境を意識した取り組みとされています。
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