報告書の2次元図面には、自動で引き出し線とタイル枚数などの詳細結果が記載される他、帳票には現況写真が貼られて平面図や位置情報とひも付けされる。不具合箇所の集計では、廊下や妻面などの場所ごとに不具合数量が全て自動で表にまとめられる。
今後の展開について、楢岡氏は「2020年7月に長谷工リフォームの関東エリアを皮切りに順次導入を進め、2021年には開放廊下以外の妻壁や足場上へ適用範囲を広げ、その先には、建物診断に限らず、修繕工事中や建設工事中の施工・点検にも導入することを視野に入れている」と語った。
また、長谷工グループの独自BIMと、マンション居住者の生活データを組み合わせたプラットフォーム「長谷工版BIM&LIM」との連携に関しては、現状では2次元図面がベースとなっているが、将来はBIMモデルを検査図面に活用したり、報告書や維持管理の内容をモデル上で見える化したりすることも構想にある。
アウトソーシングテクノロジーの代表取締役社長 茂手木雅樹氏は、「どの産業でも、技術革新によって、市場を混乱させるほど画期的なビジネスを創出する存在“ディスラプター”の登場に脅威を感じており、自らが先に変革してディスラプターになることを検討している。しかし、多くの先進国では、労働人口減少と新たなテクノロジーの開発競争により、イノベーションを起こすための技術者が慢性的に不足している。そこで当社では、職能をデバイスに埋め込むことで、省人化を図り、人手不足の解決にアプローチしている」と自社の方向性を示した。
AR 匠RESIDENCEは、その一つと位置付け、長谷工グループの持つ現場のノウハウとビッグデータの源泉になり得る豊富な作業現場、アウトソーシングテクノロジーが有する先端技術の知見と開発力を互いに掛け合わすことで生み出された。茂手木氏は「現場で打診検査作業を行うファーストラインワーカー向けに、AR技術を活用することで、これまでに無い働き方を実現した」としており、これからのロードマップでは、AIによる点検データの傾向分析や劣化検出なども検討する方針を示した。
日本マイクロソフト 執行役員常務クラウド&ソリューション事業本部長 手島主税氏(兼ワークスタイル改革推進担当役員)はDXの現状について、「新型コロナの影響で、本来ならば2年はかかるDXの浸透が(グローバル市場で)わずか2カ月で急速に広がった。とくに建設・不動産・製造・医療×作業支援・トレーニング・遠隔支援でのMR需要は、コロナ前と後で実に3倍も増加した」と指摘。
AR 匠RESIDENCEは、「検査業務全体の30%を削減しただけでなく、(コロナ禍にあって)ソーシャルディスタンスの確保、人との接触や移動を減らすことにもなる。HoloLens 2であれば、熟練度の低い作業員が現地に行き、熟練者がリモートで指示するといった技術継承や社員教育にも役立つはず」(手島氏)として、エンドツーエンドでの建物のライフサイクル全体へ適用範囲を広げられるように、ビッグデータ解析などを進め、機能拡張などをサポートしていくとした。
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