INDUSTRIAL-Xが2026年8月に設立したSPACETWIN-Xは、衛星データの活用や宇宙ビジネスへの参入を支援する。建設会社は宇宙ビジネスにどう関われるのか。代表取締役CEO 八子知礼氏らに聞いた。
「建設業界には宇宙ビジネスのチャンスがあるにもかかわらず、まだ自分たちの事業領域ではなく、参入は先の話だと考えている」。SPACETWIN-X 代表取締役CEO 八子知礼氏は、建設業と宇宙産業の関係をこう語る。
建設業と宇宙の接点は、将来の月面での建設だけではない。人工衛星で取得したデータは既に地上の状況把握などに利用されている。宇宙産業への参入という観点では、ロケットの射場など地上インフラの整備も建設会社が知見を生かせる領域だ。
製造業などのDX支援を手掛けるINDUSTRIAL-Xは2026年8月、宇宙産業に特化した新会社SPACETWIN-Xを設立した。衛星開発プロセスのデジタル変革や地上と宇宙をつなぐデータプラットフォーム「スペース・ツイン」の構築、地上産業の宇宙サプライチェーン参入支援などに取り組む。両社の代表取締役CEO 八子氏と事業開発ディレクター 安藤知氏に、新会社設立の目的と今後の構想について聞いた。
日本政府は2030年代初頭に宇宙産業の市場規模を現在の4兆円から8兆円へ倍増させる計画を掲げている。INDUSTRIAL-Xは2020年から、ものづくり産業を宇宙ビジネスへつなげる構想を掲げてきた。
2025年にはJAXAの宇宙戦略基金に採択され、衛星メーカー間の開発プロセスを標準化/効率化するためのフィジビリティスタディー(FS)の代表機関を務めた。プロジェクトでは開発プロセスへのモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)とデータ連携基盤(DBPF)の適応による効果を検証。2026年6月に最終報告をまとめた。この成果をさらに発展させるために、SPACETWIN-Xを設立した。
八子氏は新会社を立ち上げた理由について「宇宙ビジネスを一時的な取り組みではなく、中長期的な事業領域として明確に位置付けるためだ」と説明する。
SPACETWIN-Xが構築を目指すスペース・ツインは、宇宙で取得した多様なデータと地上の産業データをシームレスにつなぎ、防災やインフラ管理、物流などの課題解決に活用する双方向型のデータプラットフォームだ。具体化に向けてパートナー企業と取り組みを進めている。
八子氏は、地上と宇宙をデータでつなぐ方向は2つあるという。
1つは、人工衛星で取得した地球観測、通信、測位データなどのデータ基盤整備だ。衛星から得られるデータには、不動産開発や農場管理など多様な用途があるが、現状では衛星データを保有する各事業者と相対契約が中心になる。八子氏は複数の事業者が連携し、データ基盤を整備すれば、建設業などの地上のビジネスで広く活用できるようになると見込む。
もう1つは、地上の産業で蓄積してきた知見を宇宙ビジネスで活用する流れだ。製造業や建設業では、ものづくりを通じて多くのノウハウが蓄積されているが、個人の経験に依存する「暗黙知」も少なくない。これらの知見を多くの人が活用できる「形式知」として整理し、宇宙産業へ応用するためのデータ基盤も構想する。属人化しやすい業務を標準化し、再現性を高める仕組みづくりは、INDUSTRIAL-Xが力を入れてきた領域だ。
衛星データの活用は既に、災害時の状況把握やインフラ点検などで進みつつある。宇宙から得られるデータを建設分野で生かす場合の強みとして、安藤氏は「広域にその状況を把握できる」点を挙げる。具体的な活用先の1つが建設/インフラ分野の広域監視だ。
例えば大規模災害発生時に、衛星画像で広い範囲の被害状況を確認し、優先して調査すべき場所をスクリーニングする。被害が大きい場所を特定してドローンで調査し、さらに詳しい確認が必要なら人が現地に入るといった使い方が考えられる。八子氏によると、衛星画像の費用は以前より下がり、導入しやすくなっている。
活用を広げる上での課題が観測頻度だ。現状では、同じ場所を常時リアルタイムで観測できるわけではない。だが、今後の観測頻度が高まれば利用できる領域も増えることが期待される。
足元の事業機会として八子氏は、ロケットの打ち上げ施設となる射場の建設を挙げる。射場の整備を検討する自治体などと建設会社を結び付けることも参入支援の一つだ。安藤氏は、射場などを起点にした街づくりにも建設業の知見を生かせると語る。
安藤氏は建設会社の強みとして、多くの専門工事会社を束ね、建設プロジェクトを進めてきたマネジメントの実績を挙げる。多くの関係者を取りまとめてプロジェクトを動かす建設業の経験は、宇宙産業でも生かせる可能性がある。
宇宙ビジネスに関心を持つ企業は少なくない一方、社内や周囲に知見を持つ人がおらず、誰に相談すればよいか分からないケースも多いという。専門家に相談できても、宇宙産業特有の専門用語や前提知識が多く、参入に向けて具体的に何をすればよいのかまで落とし込みにくい。
情報提供の観点では、2026年8月から、INDUSTRIAL-Xが製造業の技術が宇宙で通用するポイントなどをまとめた調査レポートを販売している。
宇宙産業は、長年事業に携わってきた専門家が多く、互いをよく知る世界だという。その中でINDUSTRIAL-Xが比較的後発で参入したことを、八子氏はむしろ強みと捉える。「当社も理解するのに苦労してきたからこそ、参入を検討する企業に近い目線で、宇宙ビジネスとの接点や必要な取り組みの具体化について分かりやすく伝えられる」と話した。
これらの取り組みの先にあるのが、宇宙空間や月面での建設事業だ。宇宙と地上とでは、重力や温度などの条件が大きく異なる。重力の小さい月面で掘削しようとしても、機体が軽くなり、地上と同じように掘削することは難しい。昼夜の温度差も大きいため、建造物を地表に設けるか、地中に設けるかといった検討も必要になる。建造方法では、3Dプリンタ施工などの研究は進むものの、実用化はこれからだ。デジタル空間でのシミュレーションやAIを活用しながら、地上の建築/建設のノウハウを宇宙の環境に応用し、これまで長い期間がかかっていた開発を短期間で進めていくことが期待されている。
宇宙ビジネスは発展途上にあり、短期間で経営的な成果を見込むのは難しい。八子氏は「先行して参入するメリットはある」と語る。新規事業として宇宙ビジネスを検討している場合、「今から参入しても事業が形になるのは2030年ごろになるかどうかだ」という。宇宙ビジネスを遠い将来の話として捉えるのではなく、次の中期経営計画に盛り込むなど、早め検討を始めることを勧めた。
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