こちらの高架橋の耐震補強工事では、補強工事で使用する部材が、道路のカーブミラーの視界を遮ってしまうという懸念がありました。
もし、部材を設置した後に、道路反射鏡の視認性が低下したと判明すれば、部材の作り直しや再設置といった大規模な手戻りが発生するだけでなく、工事期間中の交通安全にも関わります。しかし、2次元の図面や現地の写真だけでは新しい部材が空間的にどう配置され、どう見えるかを正確に検証し、関係者に説明することは極めて困難でした。
そこで、3Dモデル化した補強部材のデータ(BIMデータ)を、ARを用いて現地の風景に重ね合わせて表示する手法を採用しました。
現地でARの工事イメージを見ることで、補強部材を取り付けると確かにカーブミラーの視認性が低下してしまうということが確認できました。リスクが工事着手前の段階で判明したことで、関係者間での合意形成がスムーズに進み、設計変更などの対策を事前に講じることができました。
今回の事例が示唆することは、AR活用が単なる干渉チェックツールにとどまらず、関係者間の認識を統一するための強力なコミュニケーションツールとしても機能するということです。図面を読んで想像してもらうという不確実なプロセスを飛ばし、完成形を全員で見て確認できれば、認識の齟齬(そご)による手戻りを減らせます。
ARによって完成形が現場で可視化された今、テクノロジーはさらに次のフェーズへと進んでいます。それは、「ベテランの目」を代替したARとAIの融合による品質管理の自動化です。
これまでは人間がARを見て判断していましたが、これからはARデバイスに搭載されたカメラとAIが、現場監督の目をサポートします。例えば、ARで表示されたBIMデータ(正解)と目の前の実際の施工状況(現況)をAIがリアルタイムで比較/分析し、「配筋の本数が図面より少ない」「部材の取り付け位置が許容誤差を超えている」といったリスクをARグラス上にNGのアラートとして表示するといった運用が現実になりつつあります。
これまでベテランが研ぎ澄まされた勘により、違和感として察知していたリスクをAIが客観的なデータとして裏付け、提示してくれるようになります。これにより、経験の浅い若手監督でも自信を持って検査や職人への指示出しができるようになり、現場の心理的な負担も大きく軽減されるはずです。
建設DXの目的は、単にデジタルツールを導入することではありません。テクノロジーによって人の能力を拡張し、経験年数によるパフォーマンスの差を埋めることに本質があります。
現在、BIMとARの連携は、一部の先進的な検証だけの特別な技術ではなく、紹介した事例のように現場で活用される道具になりつつあります。
図面の読解という高負担な作業から解放されたとき、建設技術者はより本質的な現場のマネジメントや安全管理、そしてより良いモノづくりへの工夫に注力できるはずです。それこそが、次世代の建設産業が目指すべき姿であり、私たちが技術を通じて貢献したい未来です。
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