トンネル高所の点検にはドローンを導入した。以前は遠方から異常の可能性を見つけても、足場を組んで近接目視すると大した変状ではない「空振り」が多発し、コストと安全の両面で負担となっていた。
対策として2019年度から非GPS環境下でも飛行するドローンを採用し、近接目視相当の検査品質を実現した。現在、撮影画像はMRSIと連携し、検査記録までが1回のドローン検査で終わる。磯崎氏は「足場不要のドローン点検は、業務効率化と安全性向上に貢献する」と強調した。
トンネル内飛行では、ケーブルや照明などの設備との接触を防ぐため、機体にフレームを取り付けて運用している。
非GPS環境下のトンネルでは、人の感覚によるマニュアル操作が基本となるため、操縦者にはGPSで各種制御ができるドローンに比べて高度な飛行技術が求められる。そのため、東京メトロでは8〜9日間の座学と実技、現場での実践から成る独自研修プログラムを策定し、操縦者を社内育成している。
機体は、ドローン会社の協力を受け、導入後もアップデートしている。写真に写り込むことがあるフレームの撤去、自律型センサーの搭載でトンネル内の安定飛行も可能にした。今後も技術進歩に合わせた改良を続ける方針だ。
熟練者の減少に備え、検査員の行動や視線、打音などのデータを分析し、ベテラン技術者の持つ言語化できないノウハウや経験則といった“暗黙知”の定量化も試みている。
複数の異なる種類のデータを扱うマルチモーダル分析の結果、熟練者と若手の違いが浮き彫りになった。特定のポイントを確認する場合、熟練者は15分間に35回往復して点検していたが、若手は26回往復にとどまった。視線計測では、若手はiPadの指示点や目前の現象にとらわれて視野が狭くなる一方、熟練者は漏水痕から流路や背後の影響まで広範囲を俯瞰(ふかん)していることがデータで裏付けられた。こうした差分を「見落としやすい事例集」や行動指針に落とし込み、人材育成の底上げに役立てる。
2年ごとの通常全般検査とは別に、コンクリートなどの剥落防止を目的とした打音点検も6年に1度実施している。打音点検はタワートロを移動させながら行い、工期や労力、コストが掛かるので効率化が求められていた。
そこで、トンネル内の点群データをグレースケール画像に変換して、AIで変状箇所を抽出する手法を採った。点群からグレースケール画像を作成する過程と、変状箇所の抽出を自動化したことで打音検査すべき箇所を6〜7割減らした。
特筆すべきは、画像に対するアノテーション(意味付け/情報付加)からAI学習までを東京メトロのグループで内製化している点だ。磯崎氏は「土木屋として教師データを作らなければ、ベンダーとのやり取りに時間が取られ、学習回数を稼げなかった」と内製化の理由を説明した。
磯崎氏は講演の結びに、新技術導入には、「価値観、技術、ルールの3つの壁が立ちはだかる。適切に対処する姿勢こそが維持管理の課題を乗り越えることにつながる」と提言した。
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