東京メトロのトンネル保守DX ドローン×AI×行動解析で点検効率化と技術継承を実現メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025(1/2 ページ)

老朽化が進む東京メトロの地下鉄で、85%を占めるトンネル。維持管理は急務となっているが、狭小であったり、終電後の1.5〜2時間しか検査できないなど、制約が多い。そこで東京メトロは、iPadアプリによる帳票レス化、非GPSドローンやAIの内製化で点検の効率化、さらに熟練技術者のノウハウを定量化するマルチモーダル分析など、保守DXの実現に向けて取り組んでいる。

» 2025年12月17日 19時22分 公開
[川本鉄馬BUILT]

 東京地下鉄(東京メトロ) 工務部 土木課 課長補佐 磯崎光氏は、「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025」(会期:2025年7月23〜25日、東京ビッグサイト)のセミナーに登壇。「東京メトロにおけるデジタルツールを活用した土木構造物の維持管理」のテーマで、iPadやドローン、AIを活用した保守点検の効率化事例を紹介した。

スペースが限られたトンネル内で、効率的な保守点検をするには?

 東京メトロは9路線195キロで、相互直通運転の範囲も含めると約556キロの鉄道網となり、1日の利用者は約650万人にも及ぶ(2023年度実績)。195キロのうち約85%にあたる166.8キロがトンネルで、完成後50年以上経過した区間もあり、その割合は時間と共に増加の一途をたどる。

 地下鉄構造物の保守には制約が伴う。トンネル内はスペースが限られ、大型機械を使った補修や工事が困難だ。トンネル上部の近接目視や打音検査には、タワートロと呼ばれる足場を組んだ保守用台車を移動させながら行う必要がある。しかも、作業時間は終電後の1.5〜2時間に限られる。

東京メトロ 東京地下鉄 工務部 土木課 課長補佐 磯崎光氏 東京メトロ 東京地下鉄 工務部 土木課 課長補佐 磯崎光氏 写真は全て筆者撮影

 昨今の人材不足も圧し掛かり、地下鉄インフラ保守を取り巻く厳しい現状に対応すべく、東京メトロではデジタルツールの導入と新手法の確立に注力している。柱となるのは、「iPadアプリによる検査のシステム化」「トンネル高所のドローン点検」「検査員の“動き”を数値化するマルチモーダル分析」「3Dスキャン×AIによる剥(はく)落(コンクリート片落下)リスク抽出」の4技術だ。

iPad×検査アプリで「紙」と「後作業」をなくす

 点検の効率化のために東京メトロが導入したのが、iPadと専用アプリ「MRSI」を使った検査法だ。東京メトロでは2年ごとに「通常全般検査」として、撮影係、記録係、照明係の3人体制でトンネル内を写真撮影して検査していた。

 しかし、記録係がバインダーに挟んだ紙の帳票に手書きし、事務所帰還後にExcelへ転記する必要があったため、入力ミスや作業負荷が課題となっていた。経年劣化を比べるために、2年前と同じ位置や同じ画角で撮影しなければならず、紙の資料を見比べる手間も発生していた。

従来の紙の帳票とデジカメを使った検査では、事務所での後作業が必要だった 従来の紙の帳票とデジカメを使った検査では、事務所での後作業が必要だった

 iPadと専用アプリの導入後は、3人体制は変わらないものの、2人がiPadを持ち、従来の撮影係は検査の補助に回る体制に変更した。iPadの撮影時には、アプリ内で前回の撮影画像が表示されるため、同一画面で画角を調整できる。記録方法はキーボード入力を廃止し、電子ペンでアプリ内のチェック項目を選ぶ方式に改めた。

 紙の記録では、「ひびわれ/ひび割れ」などの表記揺れが起き、集計時に時間を要していた。選択式になったことで表記が標準化され、210項目あった変状の分類も42項目に整理した。

 その結果、事務所での転記作業が不要となり、作業時間は従来の5分の1に短縮。検査結果を本社や関連部署と即座に共有可能な体制も整った。

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