建設現場の命を守る「最後の砦」、フルハーネス普及の壁は勘違い? 3Mの事故ゼロを目指す新戦略安全衛生(3/3 ページ)

» 2025年12月02日 12時51分 公開
[川本鉄馬BUILT]
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2026年はSNS活用でフルハーネスの啓発活動に注力

2026年の方針と製品について説明するスリーエム ジャパン 安全衛生製品事業部 事業部長 水谷素子氏 2026年の方針と製品について説明するスリーエム ジャパン 安全衛生製品事業部 事業部長 水谷素子氏

 安全衛生製品事業部 事業部長 水谷素子氏は、墜落防止用製品の2026年戦略と新製品の特徴を紹介した。

 水谷氏は、2019年の法令改正時に発表した事業戦略を提示し、「墜落防止用製品を日本に浸透させるゴールと、最も信頼される保護具サプライヤーになる両輪の事業戦略は今も変わっていない。実現に向け、製品開発、学習機会の提供、ソリューション展開を継続している」とした。

 スリーエム ジャパンでは、日本の作業現場にあった製品を開発し、現在では10種類のフルハーネスをラインアップ。現場の声を反映しながら、安全性と使いやすさを両立している。

 水谷氏は、2026年に注力する取り組みとして、学習機会の提供とソリューション展開を挙げた。これまでもデモやセミナーを通じて学びの場を提供してきたが、さらに強化する。デモンストレーション用トラックを使った移動式トレーニングの回数を2025年比で20%増やす計画だ。

 さらにYouTubeを中心に、これまではセミナーや研修でしか見せられなかった落下実験などの動画を公開し、ソーシャルメディアでの啓発コンテンツも拡充する。他にも、ウェビナーやセミナーの内容もアップデートする予定だ。

 最近は、器具の点検方法や交換のタイミング、落下距離といった具体的な質問が増えているという。水谷氏は、変化する顧客の困りごとや質問に対応すべく、「高所作業に携わる人が現場で本当に役立つ情報を得られるように内容を進化させる」と展望を語った。

墜落防止用製品の事業戦略と取り組み 墜落防止用製品の事業戦略と取り組み 提供:スリーエム ジャパン

閉鎖空間用のソリューションを提供開始

 2026年のソリューション展開としては、コンファインドスペース(閉鎖空間)を対象とした墜落防止や救助ソリューションのリリースを予定する。マンホールやタンク、工場のピットなど閉じた空間での作業に対応する「トライポッドシステム」と「ダビットシステム」を2026年初頭に日本市場で発売する。

ALTALT コンファインドスペース用(閉鎖空間)ソリューション 提供:スリーエム ジャパン

 説明会の会場にはダビットシステムを展示し、安全衛生製品事業部 プロフェッショナルサービス マネジャー 下山和哉氏が実演した。ダビットシステムはマンホールなどの開口部の上部に設置し、作業者のフルハーネスに、救助機能付きの安全ブロック(自動巻取り式ランヤード)を接続してエントリーさせて使用する。

コンファインドスペース用ソリューションを紹介するスリーエム ジャパン 安全衛生製品事業部 プロフェッショナルサービス マネジャー 下山和哉氏 コンファインドスペース用ソリューションを紹介するスリーエム ジャパン 安全衛生製品事業部 プロフェッショナルサービス マネジャー 下山和哉氏

 閉鎖空間は通常、人が常時いることを想定せずに設計されている。そのため上部の入口はスペースが限られ、出入りを制限している。換気も考慮されていないので、有害ガスが滞留しやすい。下山氏は「コンファインドスペースでのリスクは多岐にわたる」と話した。

 作業者自身のリスクとしては、まず滑落だ。酸欠や硫化水素などで意識を失うこともあり得る。事故発生時に救助する際、救助者の2次災害リスクも無視できない。

 ダビットシステムを使うと、トラブルに遭った作業者をコンファインドスペースの外から安全に引き上げられる。ウインチによるランヤードの巻き上げで、スピーディーに救助できるのもメリットだ。

展示されたダビットシステムの使い方をレクチャーする下山氏 展示されたダビットシステムの使い方をレクチャーする下山氏

 下山氏は、トライポッドシステムとダビットシステムが「人の昇降や救助用に設計した専用品で、国内外の法令や規格を満たし、組み立て式なので作業員にとって現場に持ち運べ使いやすい」と特長をPRした。

 墜落防止用製品全体としては、コンファインドスペース向け製品の追加で、対2025年度で10%増の成長を掲げる。「単に製品を提供するだけでなく、教育の提供や現場に即したソリューションを全体的に設計して、事故ゼロを目指すという部分で、安全文化を定着させていきたい」と語り、説明会を終えた。

説明会後には、フルハーネスを装着した状態で吊り下げを体験する機会を設けた。この状態で救助を待つことになる 説明会後には、フルハーネスを装着した状態で吊り下げを体験する機会を設けた。この状態で救助を待つことになる
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