建設業界は今、深刻な人口減少、頻発する自然災害、そして高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化という3つの難題に直面している。これまでの建設業の延長線上では対応できない難局に対し、国交省はデジタル技術を駆使して現場の生産性と安全性を高める「i-Construction 2.0」を打ち出した。その全体像を大臣官房参事官(イノベーション)の講演から読み解く。
国土交通省 大臣官房参事官(イノベーション)の信太啓貴氏は、メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025(会期:2025年7月23〜25日、東京ビッグサイト)の「事前防災・減災のための国土強靭化推進セミナー」で、インフラ分野のDXとi-Construction 2.0をテーマに講演した。
本稿では、信太氏が語ったi-Construction 2.0の全体像と現場で進む実証例を紹介する。
信太氏は冒頭、「人口の減少」「災害の頻発化と激甚化」「既存インフラの老朽化」を挙げ、同時進行する3つの問題に対応するには従来型では限界があるとした。
日本の生産年齢人口は、2040年までに2割減少すると推計されている。特に建設業界では技能者の高齢化が顕著だ。現時点でも55〜70歳の層が全体の3割超を占め、今後15年で多くの方が引退すれば、現場の担い手不足はさらに深刻化する。
災害の頻発も現場を圧迫。2024年元日の能登半島地震、同年秋の豪雨災害と、全国各地で地震や豪雨が相次いでいる。信太氏は地図を示しながら、「(災害は)どこかに偏って発生しているわけではなく、全国どこでも災害が起こり得る」と指摘した。
高度経済成長期に整備された道路や橋梁(きょうりょう)、下水道などのインフラも次々に耐用年数を迎える。現状では50年に至るものはまだ2〜3割だが、この先10年20年が経過すれば、その数は加速的に増える。今後20年で約4分の3が築50年超となる見込みと分かれば、対策の重要性は理解できるだろう。インフラの老朽化は、社会に与えるインパクトが大きい。2024年1月に埼玉県八潮市で発生した下水道陥没事故は、老朽化インフラの危険性を示す象徴的な出来事となった。
こうした背景を踏まえ、国交省が2016年から進めてきたのが「i-Construction」だ。ドローン測量やICT建機を活用し、従来工法より作業時間を3割削減するなど一定の成果を挙げた。しかし、人口減少のスピードに対応するにはさらなる一歩が必要だった。そこで国土交通省が2019年に発表したのが「i-Construction 2.0」だ。
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