いのちを磨くをテーマにしたパビリオン「null2(ヌルヌル)」。建築家で東京大学 生産技術研究所 特任教授 豊田啓介氏が建築デザインを担当し、プロデュースを手がけたのはメディアアーティストで8人いる万博テーマ事業プロデューサーの一人、落合陽一氏だ。自然素材が多様されたパビリオンが多い中、鏡を使ったメタリックな「null2」は異彩を放っていた。
パビリオンは、新開発の鏡面素材を用いている。約1年半の研究開発を経て誕生したもので、98%の鏡面性を持ち、光や風景を鋭く反射する。素材そのものが空間を構成する建築は、万博会場の中でも目を惹く存在となっている。
コンセプトは「2つの鏡」。一つは物理的な鏡として空間を変形させ、風景や自身の姿をゆがめる。もう一つはデジタルの鏡として、仮想空間の中に「もう一人の自分」を出現させ、自己の輪郭を曖昧にする。床や天井を含めた全面鏡張りの「ミラールーム」構造が、来場者に強烈な没入感を与える。
体験の中核には「希望を手放し、無(null)へと還る旅」というテーマが据えられている。来場者は、自身の3Dモデルとブロックチェーン上のNFTを紐付けたデジタル分身「Mirrored Body(ミラードボディー)」と対話しながら、自身の希望や記憶、感情と向き合う。Mirrored Bodyのキャラクターは「今日が続いてほしい」「懐かしさを手放す」といった言葉を投げかけ、観客の内面に揺さぶりを与える。
演出は2パターンがあり、キャラクターが言葉かけをして観客を誘導する「通常モード」と、人工生命のような“無機的だが生命的”な存在が登場し、言葉を使わず、映像と動きだけで観る者に問いを投げかける「インスタレーションモード」。
後者は、記号や言語に依存しないインスタレーションによって、「感覚」そのものを通じて哲学的な体験を促す。
落合氏は、現代の技術進歩について「ChatGPTの登場以降、1カ月、3日、7時間で世界が変わるようなスピード感で時代が進んでいる」と言及。過去100年の技術進化が、今や数週間で更新される時代に突入したという認識を示し、「目覚めたら世界が変わっているような感覚」をパビリオン体験にも重ねる。
null2は、パビリオン体験の終盤にかけて「全てを手放し、無に戻る」静かなエンディングへと向かう。鑑賞後には、来場者一人ひとりが“自分は何を信じ、何を手放すのか”との問いを自然に抱くシナリオとなっている。
通常モードでMirrored Bodyの部屋に入るためには、事前予約が必要。それ以外の観覧席は、予約不要先着順で入場が可能だ。
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