インタビュー
» 2024年02月07日 07時17分 公開

落合陽一氏の万博パビリオンを手掛けた「NOIZ」が語る「フィジカルとデジタルの境界に浮かぶ未来の建築設計」建築設計×コンピュテーショナルの現在地(1/3 ページ)

大阪・関西万博で、テーマ事業プロデューサーの落合陽一氏が企画するパビリオン「null2」の設計を手掛ける「NOIZ」は、建築のフィジカル要素とコンピュテーショナルデザインなどのデジタル技術との融合で、新しい建築設計の可能性を模索している。null2で具現化を目指す、未来の建築デザインをNOIZの設計担当者に聞いた。

 NOIZ(ノイズ)は、東京大学 生産技術研究所 特任教授で建築家の豊田啓介氏と、台湾出身で建築家の蔡佳萱氏が2007年に設立した建築設計事務所。東京都渋谷区恵比寿と台湾台北市に事務所を構え、国内外で特徴的な作品を生み出している。

フィジカルとデジタルの境界に、建築設計の可能性を探求

 公式Webサイトで自身を“建築・デザインの活動体”と表現するように、事業内容は単なる建築設計の枠だけでは捉えきれない広がりを持つ。コンピュテーショナルデザインなどのデジタル設計手法を積極的に取り入れながら、建築設計、内装設計、展示計画、インスタレーション、ヴァーチャル建築の提案など、ときには領域を横断して事業を展開している。

酒井康介 / Kosuke Sakai 1977年東京都生まれ。2002年に東京大学 工学部 建築学科卒業後、安藤忠雄建築研究所でキャリアをスタート。2010年には酒井康介建築設計事務所を主宰し、2016年からNOIZにパートナーとして参画。京都芸術大学 非常勤講師
撮影:石原忍

 2023年10月15日に初開催となる決勝トーナメントが行われたxRを活用した空のF1「AIR RACE X - SHIBUYA DIGITAL ROUND」は、NOIZの幅広い活動内容を示す好例だ。

 今回の渋谷を舞台にしたAIR RACE Xは、世界各地のパイロットがそれぞれの拠点でフライトしたデータを収集/分析し、メタバース空間に再現した渋谷の街をレース会場とする競技データに統合して、時間と空間を越えて競い合う次世代のモータースポーツイベント。観客は、渋谷の街中でスマートフォンやヘッドマウントディスプレイなどを使うことで、飛行機がビルの間を駆け抜ける迫力あるレースを目の前で観戦しているかのように体感した。開催にあたりNOIZは、企画と会場構築を担当した。

 AIR RACE Xの試みについて、2016年からNOIZにパートナーとして参画し、自身の建築設計事務所も主宰する酒井康介氏は、「(物質的な)モノとしての建築を飛び越えたヴァーチャルとの接点、言い換えれば物理(フィジカル)と情報(デジタル)の境界に、新しい表現の可能性を見い出したイベントとなった」と振り返る。

 そのNOIZが今手掛けているのが、2025年4月から始まる「2025年大阪・関西万博」のシグネチャパビリオン「null2(ヌルヌル)」の設計だ。

静的ではなく、いのちを感じる“動的な建築物”をイメージ

null2の完成イメージ。インタビュー時には既に実施設計を終え、2024年初頭から着工予定 null2の完成イメージ。インタビュー時には既に実施設計を終え、2024年初頭から着工予定 Copyright:2023 Yoichi Ochiai / 設計:NOIZ / Sustainable Pavilion 2025 Inc. All Rights Reserved.

 シグネチャパビリオンとは、大阪・関西万博の中核を担うテーマ事業「シグネチャプロジェクト(いのち輝きプロジェクト)」の柱の一つで、8人のプロデューサーが主導して建てられるパビリオンのこと。万博公式サイトによると、シグネチャパビリオンと、もう一つの柱となるシグネチャイベントの双方で得られる「リアルとバーチャルをインクルージョンした多様な体験により、訪れる全ての人々が“いのち”について考え、その概念をアップデートする」と掲げている。

 null2のプロデュースは、メディアアーティストで筑波大学 デジタルネイチャ開発研究センター長を務める落合陽一氏。パビリオンのテーマは「いのちを磨く」。

 NOIZと落合氏の関係は、2019年に落合氏が総合監修した東京都お台場にある日本科学未来館の常設展「計算機と自然、計算機の自然」の空間デザインをNOIZが担当したことから始まる。

 万博パビリオンの設計にあたって落合氏から依頼された内容は、「器としてのスタティック(静的)な建築ではなく、デジタル技術を用い、現実世界でその場を訪れる人と建物が交感、または場所を超えて世界中の人とつながる“動的な建物”を創って欲しい」とのオーダーだった。その命題にNOIZが導き出した解が、「ヴォクセル」を使ったデザインだ。

null2のモックアップ 落合陽一氏から“動的な建物を”と要望があったnull2のモックアップ 

 ヴォクセルとは、コンピュータ上で立体を表現する際に用いる単位。NOIZは、1辺が2メートルと4メートルの2種類の立方体=ヴォクセルを用意し、積層していくことでnull2を建設する構想を描いた。

笹村佳央 / Yoshihiro Sasamura 1989年富山県生まれ。2015年に慶応義塾大学大学院 理工学研究科 開放環境科学専攻卒業後、清水建設の設計本部でキャリアをスタート。2022年からNOIZに入社 

 null2の設計担当者で、NOIZプロジェクトマネジャーの笹村佳央氏は、ヴォクセルを積層する手法を「(3Dサンドボックス型ゲームの)Minecraft(マインクラフト)の感覚で、現実空間をデザインするようなもの」と表現する。マイクラは、ヴァーチャルの3D空間上に建てた建造物を自由に組み替えられ、ヴォクセルも同様にリアル世界でありながら、固定化されない編集の自由度が高いデザインが可能になる。パビリオン全体の形を決めるまでには、ヴォクセルの組み合わせを何十、何百通りも組み換え、スタディーを重ねた。

 笹村氏は、「世界情勢の急激な変化などを受け、材料などの建築コストが増加し、当初の予算内に収めることが難しくなっている。各パビリオンでもコスト削減のために、設計の見直しが迫られている。編集自在なヴォクセルだったため、当初のデザインイメージを損なわずにサイズをコンパクトして、コストを抑えられた」と、想定外の事態にも素早く対応した裏話を明かした。

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