東急建設は、マーターポートが提供するMatterportのデジタルツインソリューションを導入し、鉄道工事やインフラ建設の入札プレゼンから、設計、施工までのプロセス横断で有効活用している。図面のない現況調査や施工の出来形管理を現場のデジタルツイン化で効率化した他、未来の時間軸も加えた4Dシミュレーションによるフロントローディングも模索している。
鉄道、道路、トンネル、橋梁(きょうりょう)などのインフラ建設を手掛ける東急建設は、BIM/CIMの積極的導入と実践に取り組んでいる。特に渋谷駅周辺の大規模再開発で中心的役割を果たし、東京メトロ銀座線渋谷駅移設プロジェクトで国土交通省「i-Construction大賞」の優秀賞や日建連土木賞を受賞するなど、BIM/CIMの実践では業界内で高い評価を得ている。
そうしたBIM/CIM活用の中で東急建設は、いち早くMatterportに着目し、現況調査や出来形管理でMatterportのデジタルツインを用い、「過去と現在」をつなぎ、「現在から未来」を見通すソリューションとして使いこなしている。
最初にMatterportを採用したのは渋谷駅東口の雨水貯留施設完成時。貯留槽の内部をデジタルデータで保存するべく、高品質なデジタルツインを簡単かつ迅速に作成でき、コストパフォーマンスにも優れることからMatterportの本格導入を決めた。導入後には関係者が現地に行かなくても、または行けなくても、9割方はMatterportのデジタルツインを閲覧することで確認できるようになった。
東急建設 都市開発支店 鉄道土木部 デジタルテクノロジー統合推進事務所 所長 池田仲裕氏は、「Matterportで得られた点群データと計画3Dモデルを統合することで、2次元図面や単に3次元化しただけでは気付きづらい課題が即座に顕在化された」と話す。
コスト面では、これまで東急建設では複数の地上型レーザースキャナーを使用していたが、高額ゆえに保有台数に限りがあった。点群データのノイズ処理やデータ変換はICT部門に依頼していたため、手間と時間もかかっていた。LiDARとRGBセンサーを搭載したスキャンカメラ「Matterport Pro3」であれば、レーザースキャナー1台分の投資額で6台を購入できるため、多くの現場に配備可能になり、資産としての管理もしやすい。
MatterportのAI搭載撮影アプリは、点群データと4K画像を瞬時に取得し、点群データのレジストレーション(位置合わせ)処理も自動化しているので、点群処理の手間と時間が大幅に削減される。通常、大容量の点群データを扱うには高性能PCやSfMソフトウェアなどが必要だが、Matterportのデジタルツインはクラウド「Matterport Cloud」に格納され、手持ちのPCやタブレット、スマートフォンのWebブラウザだけで再生できるので、社内やプロジェクト内で誰でも使いやすく普及しやすい。
他の活用事例としては、京浜急行電鉄の「京急東神奈川」駅と「神奈川新町」駅の改修工事で、図面のない駅舎周辺情報の測量にMatterportを用いた。両駅の工事では駅舎の図面は残っていたが、法面や擁壁など周辺構造物のデータは全くなかった。工事の足場を組むために不可欠な高さのデータを得るために、単点で測量して2D図面に落とし込んでいた。Matterport Pro3の導入により、点群データを取得して傾斜している法面の差分を正確に表示。植栽や人工芝、柱などの構造物も色付き点群で可視化し、点群データと3Dモデルを統合することで詳細な足場計画を作成した。
Matterport Pro3が特に有効となるのが手の届かない高所の計測だ。施設内の天井や梁(はり)までの高さの確認、高速道路や橋脚など高所作業車が必須の場所でも手軽にデータを得られる。
さらに、Matterportのスキャンカメラと合成処理AIクラウドで生成したデジタルツインデータは事前調査だけでなく、諸官庁などの発注者や協力会社の職方との打ち合わせにも役立つ。鉄道会社へのプレゼンでは、デジタルツインを用いたビジュアル化で理解を得られやすく、早期の合意形成につながった。
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