続いて、土地と経済への影響という視点で空き家問題の可視化に取り組む最新研究として、横浜市立大学 データサイエンス学部 准教授で、東京大学 空間情報科学研究センター 客員研究員も兼任する鈴木雅智氏が「長期空き家の負の外部性:東京圏の人口減少都市における検証」をテーマに講演した。
空き家問題に対するアプローチで、周辺地域への影響調査に関して、鈴木氏は「これまでは自治体担当者や近隣住民にアンケートをとるのがほとんどだった。それでは空き家が地域で課題となっているとは分かっても、経済的な影響といった定量的な分析はできていなかった」と問題点を指摘する。
そこで鈴木氏は、4年以上にわたって入居者がいない長期空き家が具体的に周囲の不動産価値に影響を与えているかをリサーチした。人口減少が著しい神奈川県横須賀市を対象に、山地や坂が多く、アクセスのしづらさから空き家が増えている「谷戸地域」と呼ばれるエリアと、アクセスしやすく基盤整備がしっかりしている「整備された住宅地」のエリアを比較した。
2つのエリアで成約物件を中心とする半径50メートルの範囲に長期空き家が何軒あるかを割り出し、「ヘドニック法」と呼ばれる計算式を基に地域で1軒の長期空き家が増えれば成約価格にどの程度影響があるかを割り出した。
割り出した両地域の成約物件から50メートル範囲で、平均長期空き家は1.5件。それぞれのエリアでは、谷戸地域で平均2.5件、整備された住宅地域では平均1.1件と大きく差が開いた。計算によれば、全体でみると成約物件の周囲に空き家が1軒増えるごとに、取引価格は約3%低下する。しかし、谷戸地域に限っては、取引価格への影響は少ないとの結果が出た。近隣に長期空き家が多い地域は、そもそも過疎化が進んでいるため、1軒空き家が増えても、地域の衰退は変わらないためだ。
また、追加的に空き家が何年続けば外部経済に負の影響を与えるかも考察した。1〜2年で空き家が解消された物件では影響が少なく、3年以上が経過すれば住環境の悪化をもたらし、外部不経済につながると判明した。
そのため、鈴木氏は「まだ空き家が少ない地域で、いかに長期空き家を増やさない施策を講じることが大切だ」と指摘する。
セミナー後半では、東京圏での空き家の経済的な影響を分析するとともに、人口減少時代に突入する中で、空き家問題の将来の見通しと抜本的な対策を論じた。
<後編に続く>
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