解体工事データからみる“空き家”が地域に及ぼす外部経済への影響 長期空き家をどう防ぐか空き家の外部不経済に関するセミナー(後編)(1/2 ページ)

空き家問題は、行政や地域住民にとって、防災や治安に関わるため、解決は急務だ。しかし、経済的な側面から空き家問題を分析すると、都心部と山間地域など、エリアごとに生じる不利益は大きく異なる。空き家問題に取り組む産学官の団体「全国空き家対策コンソーシアム」が主催したセミナー後半では、さらに深掘りするため、東京圏での空き家の経済的な影響を分析。これからの人口減時代に突入する中で、空き家問題の将来の見通しととるべき対策を展望する。

» 2024年06月06日 12時32分 公開
[宮裡將揮BUILT]

 空き家問題の解決に向け、企業や専門家らが手を携えて取り組む団体「全国空き家対策コンソーシアム」は2024年4月19日、空き家問題に関する研究者らを招き、空き家が地域に及ぼす経済的な影響をテーマにWebセミナーを開いた。

 本稿では、東京圏での空き家の経済的な影響をはじめ、これからの人口減時代の空き家問題の見通しと、講じるべき有効策などを論じたセミナー後半をレポートする。

東京圏での空き家の外部経済への影響

 管理が行き届かない長期空き家は、物理的・心理的にも周囲の住環境に悪影響を与えてしまう。国土交通省の調査によれば、地域住民に身近に発生している土地問題を聞いたところ、「空き家や空き地といった閉鎖的な建物が目立ってしまう」との回答が多く、こうした問題への関心は高まりつつあると分かる。

土地問題に関する自治体や地域住民に関するアンケートでは、長期空き家などをはじめとする土地利用の外部不経済について、両者から課題が指摘されている 土地問題に関する自治体や地域住民に関するアンケートでは、長期空き家などをはじめとする土地利用の外部不経済について、両者から課題が指摘されている 提供:全国空き家対策コンソーシアム

 現状の課題を踏まえ、東京大学 経済学研究科 連携研究機構 不動産CREI特任助教 相場郁人先氏は、前編で触れた鈴木氏とともに共同研究で取り組んだ「空き家の外部不経済 空き家解体工事実績データを用いた検証」の研究内容を発表した。

 従来、日本の空き家問題に関する先行研究は、特定の自治体の空き家状況に着目したものにとどまっていた。今回の研究では、より広範な空間スケールでも外部不経済が見られるかを分析するため、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)での外部不経済の可視化を試みた。

 分析では、解体工事会社と施主をつなぐWebサービスで空き家の適切な除却に取り組むスタートアップ企業「クラッソーネ」が提供した対象地域の解体工事実績(解体工事の場所と年月)と、そこから半径50メートル以内での不動産取引のデータを比較し、成約物件に与える空き家の外部不経済の影響を計算した。取引の翌年に解体工事が行われていれば、取引時点ではそのエリアに長期空き家が確実に存在しているため、経済への悪影響を分析できるとしている。

 こうした分析でも、前編の鈴木氏の研究と同じく、東京圏で長期空き家の半径50メートル以内で取引された住宅の成約価格は減少傾向が確認され、空き家の数が低い自治体ほど影響が出やすい傾向となった。さらに半径100メートル以内に範囲を広げると成約価格の低下は一貫して生じなかったため、価格への影響は成約物件から長期空き家を視認できる範囲にとどまった。

解体工事の実績データを基に外部不経済の影響を可視化 解体工事の実績データを基に外部不経済の影響を可視化 提供:全国空き家対策コンソーシアム

 相場氏は、「長期空き家の外部不経済は特定の自治体での限定的な現象ではない」と課題がどの地域にも共通していると指摘し、「まだ、衰退が著しくない地域で長期空き家の数を抑制する政策が有効だ」とする。

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