旧耐震物件で環境性能認証の取得は難しい? 図面がない築50年のホテルでもBELS認定「省エネ計算の専門家」が解説する建築物省エネ動向(4)(1/2 ページ)

本連載では、環境・省エネルギー計算センター 代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆。第4回は、既存/築古建築物での環境性能の認証を取得する際の注意点や高い評価を受けるためのポイントなどを解説します。

» 2025年06月26日 10時00分 公開

 これまでの連載では、不動産業界でも環境性能認証の取得が注目されていることを紹介しました。既存建築物に焦点を当ててきましたが、特に築古の建築物については「認証取得が難しいのでは?」とのイメージを持たれる方も多いようです。

 そこで今回は、築古建築物における環境性能認証取得の実態について解説します。

建築費高騰や労働力不足で既存建築物の活用が増える?

 2025年4月から建築物省エネ法の改正により、原則として全ての建築物が省エネ基準に適合することが義務付けられました。その影響は、省エネ適合性判定の手間が増えるだけではありません。建築費の高騰が続く中、省エネ基準を満たす設計にすると、さらにコストが増加する可能性があります。

 さらに、人口減少に伴う労働力不足も重なり、新築のハードルは年々高まっています。現実に住宅を中心に建築物の着工数は、減少傾向にあります。

 そこで注目されているのが既存建築物の活用です。リフォームやリノベーションで建築物を再生し、さらに環境性能認証も取得して資産価値を上げる動きが増えてきています。

旧耐震の建築物で認証を取得するケースも

 築古の建築物では環境性能認証の取得が難しいと思われがちですが、1981年以前の旧耐震基準で竣工した古い建築物でも取得は可能です。

 定期的に設備更新が行われていれば、築古の建築物でも性能は十分に確保されています。問題となるのは、建築物自体の性能ではなく、認証取得に必要な図面や仕様書などの資料が残っていないケースです。

 当社が手掛けた事例では、築50年のホテルで「BELS認証(建築物省エネルギー性能表示制度)」を取得した実績があります。建設から50年経過しているため、設備更新は何度も行われていましたが、最新の図面、特にCADデータが残っていない状態でした。そのため、過去の図面を集め、更新履歴を確認しながら新たに図面を書き起こし、CADデータを作成する必要がありました。

 また、不動産売買時には、法的/経済的/物理的な調査が行われ、物件資料の受け渡しも発生しますが、環境性能の認証取得で必要な資料が含まれていないことも多々あります。売買契約終了までに入手できれば良いですが、後から売り主に依頼するのは難しく、手に入らないと新たに準備しなければなりません。

 認証取得を代行する会社でも、そこまでは対応していないかもしれません。外注を検討する場合は、過去の図面からCADデータ化できるかなども含めて確認することをおすすめします。

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