全国的に空き家問題が深刻化している。空き家の数は一貫して増え続け、今後は少子高齢化に伴い世帯数の減少が本格化し、勢いはさらに増すとみられる。地域に空き家が増えることは所有者だけでなく、治安や防災面の不安などさまざまな悪影響を及ぼす。空き家問題に取り組む産学官の団体「全国空き家対策コンソーシアム」が主催したセミナーで、専門家らが経済の観点から空き家問題を分析し、解決に向けたアプローチをレクチャーした。
空き家問題の解決に向け、企業や専門家らが手を携えて取り組む団体「全国空き家対策コンソーシアム」は2024年4月19日、空き家問題に関する研究者らを招き、空き家が地域に及ぼす経済的な影響をテーマにWebセミナーを開いた。
社会問題化している空き屋の増加は、実は近年に発生した事象ではない。少なくとも1980年代から空き家は一貫して微増傾向にあった。過去に問題視されなかったのは、世帯数の増加が、空き家数を抑えてきたことが大きい。しかし、これからの日本は世帯数が減少に転じるため、空き家の上昇を促すと懸念されている。野村総合研究所の試算によれば、2038年には、全国の住宅の3軒に1軒が空き家になるという。空き家は地域の安全性や治安の悪化、景観など近隣住民の生活環境に悪影響を及ぼすため、解決を探る議論が続いている。
こうした背景の下に立ち上げられたのが全国空き家対策コンソーシアムだ。クラッソーネを代表とし、国や自治体、さまざまな民間企業が参画し、空き家問題の解決に取り組んでいる。相続手続きや定期管理、リフォーム/イノベーション、売却、解体、土地活用など多方面のノウハウを生かし、地域資源をつないでいくことを目指しており、今回の研究発表もその一環となる。
セミナーではまず、産学官連携で不動産問題のイノベーションを研究する東京大学 不動産イノベーション研究センター(CREI) 特任研究員 長瀬洋裕氏が登壇。研究で目指す方向性として、1.都市力向上方策の在り方、2.多様なサービスとエリア価値の増進、3.不動産情報の集約、4.新技術とこれからの不動産産業――といったテーマを設定していると説明した。
長瀬氏は、CREIが実施した行政が管理する土地や建物のエリアごとの有用性に関する研究をベースに、活用が見込める土地と、そうでない土地の分類は3つのレイヤーに分けられると解説。中心市街地などの市場価値があるエリアは「レイヤー1」とし、所有意欲が湧き、管理が適切になされることが期待できる種類の土地と分類する。多様な利用の可能性があり、これからも権利の調整が適切に行われる必要があるとする。
レイヤー2は、市場価値がないとはいえないが、所有意欲があまり見いだせず、管理不全になる可能性がある土地/建物。ただ、災害防止といった何らかの価値を創出することで、公園などの利用可能性が残されている。
レイヤー3は、山奥などのエリアで市場価値がほとんどなく、所在不明や管理不全に陥る。消極的な管理のみが行われているため、土地の利用は期待できない場所だ。
こうした分類から、長瀬氏は「空き家問題も物件のある土地によって、使い道は千差万別だ。市場価値があって取引されるようなところもあれば、今後の利用が難しいところもある。これから世帯が減り続ければ、需要も縮小する。エリアごとに今後の施策を考えることが大切だ」と結論付ける。
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