スマートイノベーションカンパニーを目指す清水建設がイノベーション創出のための重要拠点として新たに2023年9月に設立したのが「温故創新の森『NOVARE』」だ。前編ではその概要を紹介したが、後編では清水建設がNOVAREで実証を進めているDXによる新たな空間価値創出への取り組みを紹介する。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は建築物やそれが生み出す空間にどのような変化を与えるのだろうか――。
清水建設グループは2030年に目指す姿として、建設事業の枠を超え、時代を先取りする価値を創造するスマートイノベーションカンパニーへの進化を目指している。そのために、重要になるのが、事業構造、技術、人財についての3つのイノベーションだ。この3つのイノベーションを実現するための拠点として2023年9月に東京都江東区潮見で設立されたのが「温故創新の森『NOVARE(ノヴァーレ)』」である。
前編でこのNOVAREの概要を紹介したが、後編ではイノベーションにおける要素の1つとしてNOVAREで実証を進めているDXについての事例と空間価値創出への取り組みを紹介する。
清水建設では2021年に中期デジタル戦略として「Shimz デジタルゼネコン」を発表し、DXへの取り組みを積極的に推進している。具体的には「モノづくりをデジタルで」「モノづくりを支えるデジタル」「デジタルな空間/サービスを提供」の3つの方向性での取り組みを進めており、2023年まで3年間連続で「DX銘柄」にも選ばれている。
NOVAREはこうしたDXの実践の場としての役割や、ショールームとしての役割を担っており、先進技術を生かしたさまざまな取り組みを行っている。清水建設 NOVARE DXエヴァンジェリストの及川洋光氏は「清水建設では、建築、建設のデジタル化に積極的に取り組んでおりNOVAREでもさまざまな取り組みを進めている。また、建築、建設だけでなく、建築物の空間とデジタル技術を組み合わせた新たなサービスの検討などにも取り組んでいる」と述べる。
NOVAREを通じたデジタル技術を活用した取り組みの1つがデジタルツインだ。デジタルツインとは、「デジタルの双子」を意味し、フィジカル空間の情報をIoT(モノのインターネット)などを活用して、ほぼリアルタイムでサイバー空間に送り、サイバー空間内にフィジカル空間の環境を再現するものだ。このサイバー空間上に物理世界の情報を用いて再現することから、サイバー空間上でのシミュレーションなどの結果を踏まえて物理世界に反映できることが利点とされている。
NOVAREでは、BIM(Building Information Modeling)情報をベースに、建屋内の空間の活用状況やエネルギー使用状況の監視などを行っている。前回、NOVAREでは複数建物(街区)で再生可能エネルギーを融通し合いゼロエネルギーを達成する「ネットゼロエネルギーソサエティー(ZES)」を目指し、NOVARE内の各建物間で熱融通システム(多棟マネジメント)を構築していることを紹介したが、それを実現するためにデジタルツインを活用している。
建築物の情報についてはBIMから用意し、NOVARE内で発電している各施設の太陽光発電システム、地中熱発電システム、燃料電池システム、エネルギーをためる蓄電池や水素貯蔵タンクの状況などを全てデータとして取得し、デジタルツイン上で全てビジュアル化して示している。また熱についても熱交換システムを建屋間で張り巡らせており、建屋間の熱活用の状況も表示するとともに、エネルギーの活用データを基に、制御を行いエネルギーの最適化を目指している。
及川氏は「街区をイメージして複数建物間での電気や熱などのエネルギー制御を、実際の建築物で行っているのは日本ではほぼない。IoTなどを生かして集めたデータをデジタルツインとして再現し、これらのデータを基にAI(人工知能)などで分析して最適制御を行っている。エネルギーの使用状況のデータだけでなく、気象情報や建物の利用者の状況なども組み合わせて、どういうエネルギーの割り振りが最適なのかをさまざまな条件付けをして今検証しているところだ。現在はまだ試行錯誤の状況だが、まだ正解例のないところをいろいろ試していくことがNOVAREの役割だと考えている」と考えを述べている。
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