匠の心を持ったデジタルゼネコン 清水建設がDXで生み出す建物の新価値温故創新の森「NOVARE」探訪(後編)(2/3 ページ)

» 2024年06月03日 07時00分 公開
[三島一孝BUILT]

「ノーアドレス」を実現するデジタルツイン

 同様に前回紹介した「ノーアドレス」も、デジタルツインを活用することで実現している。人が自由に座席を選んで働ける「フリーアドレス」をさらに進め、モノのレイアウトなども自由に配置しながら快適に働ける「ノーアドレス」という考え方は、人とモノにサイバー空間上のアドレスを与えそれを管理することで実現している。

 「ノーアドレスを実現するには、建物としての空間や各種ハードウェアと、これらと連動して再現できるデジタル空間での管理が必要になる。フィジカル空間で人の動きやモノの動きなどで何がどこにあるかを把握し、空調や照明などを働く人にとって最適な形で制御している」と及川氏は語る。

 レイアウトフリーを実現するために、座席には固定的な電源コンセントがなく全てポータブル電源を用意している。床では「ピクセルフロー」とする超個別空調システムを設置し、個別に調整された温度の空気をファンによって送風する。さらにLED照明もPoE(Power over Ethernet)対応で電源と通信を1本のケーブルで送受信できるため、個々の制御をネットワーク経由で行うことができる。

photophoto (左)ピクセルフローの吹き出し口と(右)天井のPoE対応のLED照明。それぞれネットワークに接続され個別制御できることが特徴だ

 加えて「働く人がどう感じるか」についての情報を3つの手段で取得している。1つ目はオフィス内で働く人が持つビーコンセンサーで、位置情報や各個人の認証などに使用している。2つ目が各個人にひも付けた環境に対する感じ方についての定性情報でスマートフォン端末から「寒がりや暑がり」などの情報を入力する。3つ目が赤外線カメラによる床の温度情報でより細かいブロックでの温度把握を行っている。これらを組み合わせることで、暑がりの人が近くで働いている場合は、ピクセルフローの制御でより温度を下げたり、人のいない場所の照明や空調をオフにしたりすることが可能となる。

ピクセルフローの概要 ピクセルフローの概要とデジタル空間上での制御イメージ 出典:清水建設資料

 実現するポイントとなっているのが、清水建設で建物OSとして訴求しているデジタルプラットフォーム「DX-Core」だ。DX-Coreは、建物とデジタルを融合させ各種設備機器同士の連携をローコード(プログラムレス)で可能にすることで新しいサービスを生み出すためのデジタル基盤で、API(Application Programming Interface)適用により、既にあるアプリケーションやシステムと簡単に連携できる。そのため、これらを組み合わせることで、建物をベースとしたさまざまなサービスやソリューションを短期間で簡単に構築することができる。

 及川氏は「NOVAREでも取り組んでいるが、DXを生かしたサービスやソリューションを実現するためには、技術だけで考えるのではなく、デザイン思考でストーリー立てて構築することが重要だ。DX-Coreを活用することでより早く試し、試行錯誤を繰り返すことができ、最適な仕組みを迅速に構築できる。

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