手書きの文字入力が建設現場を変えた MetaMoJi創業者が現場DXにかける思いとは建設業界の新3Kを支援するソリューション(3/4 ページ)

» 2024年05月20日 07時08分 公開
[黒岩裕子BUILT]

現場ではiPad、オフィスではPCで情報をリアルタイム共有

浮川社長 浮川社長 撮影:村田卓也 

――eYACHO開発のきっかけは

浮川社長 大林組では早期から現場でのスマートデバイス活用を目指し、2012年には3000台のiPadを導入しましたが、現場での利用率が低いのが悩みでした。そこで、iPadを活用している従業員の使い方を調査をしたところ、多くの人が野帳の代わりのメモとしてMetaMoJi Noteを使用していることが明らかになったのです。大林組のIT部門が導入を進めたわけではなく、現場の従業員が使いやすいと感じて個人的にインストールし、約400台で利用されていたそうです。

 紙の野帳に書き留めた内容を共有するには、コピーして配ったり、オフィスに戻った後にPCで清書してメールで共有したりする作業が発生します。これは現場作業が終わった夕方以降に行うため、残業時間が増える要因となり、デジタル化が求められていました。

 大林組では、スマートデバイスを現場に展開すると同時に、アプリの独自開発にも取り組んでいました。しかし、手書き入力技術の自社開発は技術的に難しいということで、MetaMoJi Noteを建設業界向けに改良し、製品化してはどうかと提案を受けたのです。この提案を受けて共同開発に着手し、表計算などの必要な機能を追加しながら、2015年に初代eYACHOをリリースしました。

浮川専務 初代eYACHOはあえてネットワークに接続せず、個人のデジタル環境として使用する仕様にしました。しかし現場の方から「せっかくデジタル化しているのであればリアルタイムでデータを共有したい」という要望が多く、徐々にクラウド化、シェア機能など、データ共有をスムーズに行うためのバージョンアップを重ねています。

 シェア機能とは、自分のタブレットで図面や書類に書き込んだ内容を、リアルタイムに画面上で共有できる機能です。離れた場所にいる相手とも瞬時にやりとりができるため、チームでの作業を効率化できます。また、1社だけでは建設現場の仕事は成り立ちませんから、JVの構成企業や、協力業者とのデータ共有も必要です。協力関係にある他社とも、データをクラウドで共有できる機能も追加しました。

浮川社長 個人の利用から始まった現場のデジタル化ですが、今ではチームのコミュニケーションツールへと進化しています。eYACHOは取り込んだ図面に双方向から手書きで自由に書き込み、その内容をリアルタイムに共有できるため、現場での情報共有、設計のレビューなど、部署をまたいで使えます。

 図面を共有しながらオンラインで打ち合わせを行い、例えば設計上は1メートルの幅があるはずなのに、現場では50センチしかないなどの情報を、リアルタイムで図面に反映できます。オフィスではPC、現場ではiPadを見ながら情報を共有するという、タブレットの活用による新しい世界が開けたのです。

浮川専務 eYACHOの開発当初のテーマは文字入力の省力化でしたが、近年では建設現場の仕事を効率化する機能を順次追加しています。図面管理の強化や、承認系の機能、帳票の書式を柔軟に変更できる機能などがあります。建設現場で使用する帳票は、現場ごとに様式が異なるケースが多く、帳票フォーマットを自由にカスタマイズできるように改良しました。

浮川社長 また、現場でトラブルが起こったときに、電話でやりとりするだけでは状況が正確に伝わりません。撮影した写真を添付して共有すれば、離れた場所にいる相手も現場の状況を一目で理解できます。その写真に双方から書き込みをしながら打ち合わせができるのです。これは当社のユニークな技術で、ユーザーに重宝していただいています。

 繰り返しになりますが、当社の技術の強みは、手書きやリアルタイム共有といった、汎用性の高い技術です。幅広い局面でも使っていただける要因だと思います。

PDFや写真の上にも手書きで書き込める PDFや写真の上にも手書きで書き込みができる 提供:MetaMoJi

浮川専務 スマートデバイス用の建設業界向けアプリは、さまざまなメーカーからリリースされています。建築用、土木用など専門性の高いアプリも多いですが、eYACHOは高い汎用性で、ゼネコン/サブコンはもちろん、発注者にも広く導入いただき、建設現場を支えています。建設用語を効率的に入力するための辞書も搭載しており、紙の野帳から切り替えた方からは「もう紙には戻れない」といううれしい言葉をいただいたこともあります。

 最近では地方の中小建設業からの引き合いも増えてきました。まずはお試し版を使ってもらうのですが、やはり手書きですから「誰にでも使いやすい」という感想をいただくことが非常に多いです。

浮川専務 浮川専務 撮影:村田卓也

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