――なぜMetaMoJiを創業するに至ったのでしょうか?
浮川社長 ジャストシステム退社のきっかけは、2009年、キーエンスの資本を受け入れた際に基礎研究チームの解散を求められたことでした。優秀なエンジニアを手放すことは考えられず、約20人の技術者とともにMetaMoJiを立ち上げました。今ではさまざまな社名や用語に使われていますが、Metaには「超える」という意味があります。新たな会社で、一太郎という画期的な日本語ワープロソフトを超える製品を作るという想いを込めて命名しました。
浮川専務 MetaMoJiは現在、東京本社、徳島支社、大阪営業所、福岡営業所の4カ所の拠点に、約100人の従業員が所属しています。全面的にテレワークを導入しているため、東京本社の従業員はほぼ出社せずに業務に当たっており、徳島支社の従業員は東京本社よりも自宅と職場が近く車通勤のため、常に半数ほどが出社しています。勤務地はそれぞれ違っても、双方向/リアルタイムに資料共有ができる自社アプリなどを活用し、支障なく業務を進めています。
浮川社長 実は創業当初、MetaMoJiは動画配信アプリを開発していました。転機が訪れたのは2010年、米Appleが開発したタブレット端末「iPad」の登場です。当時の衝撃は鮮明に覚えています。発表当初は日本では販売されていませんでしたが、「一刻も早く実物を触ってみたい」と、知り合いの方がハワイで買ってきたiPadを見せてもらいました。
iPadは画面上のキーボードをタップして文字を入力します。アルファベットの入力はポンポンとタップするだけで完了しますが、日本語は平仮名や漢字への変換が必要になり、入力にはより多くの手間がかかります。
日本語入力の利便性を高める方法を検討していたところ、タブレットの画面を指でなぞるだけで滑らかな線が書けることに気付きました。この特性に着目し、画面に書かれた線を解析して文字に変換する、手書入力アプリの開発に着手したのです。
浮川専務 社長は当初から、自分が納得する品質にならなければリリースしないと宣言していました。実機がなければ開発は進みませんから、エンジニア一人一人にiPadがいきわたるよう、苦労して調達したことを覚えています。
最初に製品のプロトタイプを試したときの感動は忘れられません。文字認識はある程度処理に時間がかかるものだと予想していましたが、iPadには高性能なCPUが搭載されており、反応速度が想定よりもずっと早かったのです。
浮川社長 こうして開発したのが、手書きシステムの「mazec(マゼック)」です。熟語の一部を平仮名で書く「交ぜ書き」と、「テクノロジー」を組み合わせた名称です。iPad上をなぞり、手書きで直接文字入力ができるアプリを商品化したのはMetaMoJiが世界で初めてでした。このアプリがあれば、PCのキーボードを使い慣れていない高齢者や子どもでも、画面にそのまま文章を書くことができます。
浮川専務 mazecの大きな特徴は、不正確な漢字を書いたり、熟語を漢字かな交じりで書いたりしても、認識した形から連想する漢字や単語を提示し、イメージ通りの文字変換ができることです。漢字や熟語を正確に書かなければ認識できないのでは、実用性がありません。これはアプリをリリースする条件でもありました。
浮川社長 完成品は2011年、手書きデジタルノートアプリ「7notes」としてリリースしました。ローマ字やキーボード入力が苦手な人でも、まるで紙に文章を書くかのように入力できることから、「これなら使える」をキャッチフレーズとしました。7notesは大きな反響を呼び、iOS用のアプリランキングで1位を記録するなどヒットしました。
7notesの成功を受けて、MetaMoJiではmazecをベースに、さまざまな現場向けのアプリケーションを開発しました。これまで机の上でしか行えなかったPC作業が、iPadを現場に持ち込み活用することで、場所にとらわれずにできるようになります。現場で使えるタブレットならではの利便性を追求し、開発を進めました。
こうして完成したのが、現場でも使える手書きノートアプリ「MetaMoJi Note」です。2012年にリリースしたMetaMoJi Noteがきっかけで、大手ゼネコンの大林組と、施工管理業務支援アプリ「eYACHO」の共同開発を行うことになります。
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