飛島建設は埼玉大学と共同で、地面に設置して工事振動を低減する「防振堤」を改良して施工性と耐久性を向上するとともに、適用範囲を15Hz以下の振動まで拡大した。
飛島建設は2024年3月19日、埼玉大学大学院と共同で、建設工事の振動対策技術「防振堤」の施工性などを改良するとともに、振動への適用範囲を15Hz(ヘルツ)以下まで拡大した。
防振堤は振動の伝播(でんぱ)経路に設置することで建設工事の振動を低減する技術だ。飛島建設は今回、2020年3月に埼玉大学大学院 理工学研究科の松本泰尚教授と共同開発した、防振堤の1種である「質量体」の重りを改良し、施工性と耐久性を向上させた。また、新たに振動系の防振堤を開発し、振動への適用範囲を15Hz以下まで拡大した。
防振堤は藤崎商会が特許取得済みの技術のため、飛島建設は実施許諾契約を締結し、販売およびレンタルによる展開が可能になった。今後はNETIS登録による技術の活用促進を図るとともに、地盤条件と低減効果の関係に関する検証を続けていく。
質量体は、接地面の剛性と質量によって、地表面の変位を拘束し振動を低減する。飛島建設の従来の質量体は、敷鉄板の上に大型の土のうの重りを複数設置するシンプルな構成で、安価に設置できる一方、劣化が早く転用が難しいという課題があった。
改良版では、土のうの代わりに、932(幅)×312(厚さ)×1847(長さ)ミリの鋼製枠の中に再生骨材を充てんした重りを使用する。現場へ搬入後にそのまま設置でき、複数の現場間で転用可能にした。重りは複数積層し、重ねる際は、間に厚さ10ミリのゴムシートを設置してがたつきを防止する。設置する規模や地盤条件によって振動の低減効果は変動するが、約15Hz以上の幅広い振動に対して効果を発揮する。
また、振動系は、基礎とばね、重り(質量体の使用も可能)から成る。共振により発生する二次波が入力波に干渉する効果により振動を低減する。重りとばねとの組み合わせで固有振動数を調整できる。低減効果は固有振動数に近い振動数で得られるため、受振側の建物の固有振動数を適用することで、約15Hz以下の振動に対して高い低減効果が期待できる。
開発にあたって、飛島建設は、実大実験による質量体/振動系の振動低減効果に関する検証を実施した。
質量体の検証では、0.45立方メートル級油圧ショベルの走行で発生する振動を対象に、2列×4列(約2×8メートル)、高さ1〜4段(面密度約475〜1900キロ/平方メートル)を設置し、低減効果の比較を行った。質量体の中心から4m地点での振動加速度レベルの周波数特性を見ると、未設置の場合と比較して、12.5Hz以上で低減したことを確認した。低減効果は面密度が高いほど大きく、特に16〜25Hzの低減量が顕著に増加した。また、質量体の背面から約5メートルの範囲で安定して振動が低減し、高さが4段の場合では3〜5dB(デシベル)の低減効果が得られた。
振動系の検証では、加振器を使用し、振動系の固有振動数と一致する4.7Hzの正弦波加振を行い、振動系を1基、もしくは2基設置した場合のそれぞれの低減効果を比較した。
加速度の実効値は未設置時と比べて、振動系が1基の場合は22%(2dB)低減、2基の場合は39%(4dB)低減した。振動系が2基の場合は、振動系の背面から約5メートルの範囲での低減量は2〜4dBだった。
質量体については、北千葉広域水道企業団発注の導水管更新に伴うトンネル築造工事での現場適用も実施。0.45立法メートル級油圧ショベルの掘削作業で発生する振動を対象に、設置数40基(1列×10列×4段)、設置延長は20メートルで、設置前後の振動レベルを比較したところ、16Hz以上の振動数で5dB前後の低減効果を確認した。
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