ISO 19650が2018年に発行されてから、各国で発行されたBIMに関するガイドラインを参照すると、ISO 19650の概念が積極的に取り入れられている。私が個人的に調べたところ、ISO 19650が下記のように各国で普及していることが判明した。英国はISO 19650自体が「UK BIMフレームワーク」として、BIMガイドラインと位置付けている。そこから、ベトナム、マレーシアといったアジア圏、南アメリカのペルー、オセアニアのオーストラリア、ニュージーランドにも拡大。EU圏についてはあまり調べられてないが、英国に近い当然アイルランドでの取り組みは広がっていると想定される。米国については、現在「NBIMS(国家BIM標準)」の改訂作業中にあるが、そこにISO 19650についての記述があるので、ISO 19650の考え方が入ってくるのではないかと予想している。
ガイドラインの記述は、ペルーはスペイン語で、ベトナムはベトナム語で、マレーシアは英語で書かれたものが公開されている。プロジェクトの組織とその関係について記載されている内容は、言葉が違っても、同じような図で示されている。下図は、ISO 19650-2の図2「情報マネジメントを目的とした関係者とチーム間のインタフェース」を引用している。
各国のBIMガイドラインに、ISO 19650の情報マネジメントの考え方が採用されることで、これまで不確かだったBIMの概念が、世界レベルで共通化されてゆくはずだ。数年後には、各国のガイドラインがそれぞれの国の企業に浸透してゆくことにより、BIMを使用した情報マネジメントが、標準化され、一般化されるだろう。
では、日本の取り組み状況はどうか?
BIM推進会議による「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン(第2版)」では、「日本におけるBIMは国内の建築・建設業界の商習慣を元に活用されてきたため、今すぐ国際規格に沿った推進は出来ませんが、実際に各国のBIMガイドラインにおいても、ISOを参照しながらも、各事情に応じたカスタマイズが行われています。特に、設計〜施工〜維持管理・運用は各国で異なるため、業務の在り方を検証し、推進を行っています」ということで、現在は国際規格を検証し、その推進を行っている。
上記のガイドラインを踏まえると、建築・建設業界の商習慣が、国際規格となる情報マネジメントの導入を阻んでいる要因としているが、ISO 19650の内容を深く理解すれば、日本の商習慣に合わないとは思えない。ぜひ、業務の在り方の検証を進めていただき、日本でもISO 19650の情報マネジメントの考え方を積極的に取り入れて頂けることを期待したい。
前回、私は「BIM Innovation HUB」によって、共通BIM環境を作り、企業や組織を越えた「つながるBIM」を作ってゆきたいと述べた。いまだ準備段階で、具体的な活動に進んでないが、その思いに変わりはない。
ただ、国内のBIMだけでなく、世界中でBIMをつなげてゆくには、ISO 19650の情報マネジメントをもっと知ってもらわなければならない。そこが、日本の建設業界の危機構造脱却シナリオの第一歩と認識しており、そのための周知もBIM Innovation HUBの活動に取り入れてゆきたい。
伊藤 久晴/Hisaharu Ito
BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。
近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。
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