続くセッションでは、ゼンリン GISソリューション営業部 課長 遠山啓氏が登場。日本最大手の地図情報会社として知られるゼンリンは、住宅地図をはじめ、カーナビやドローンまたはスマートフォン、GISまでの幅広い地図データを制作し、提供してきた。
そして、前述の通りPLATEAUと並ぶ独自の3D都市モデルなど、多種多様な用途に応える3次元地図データの開発にも積極的に取り組んでいる。遠山氏は、特に3D地図データに関する展開を中心に語ってくれた。
ゼンリンの3D地図データに対する姿勢には、いま建設業界が直面する3つの課題がある。すなわち、他産業に比べ低い労働生産性、現場人材の高齢化と入職者減に起因する技術者と技能者の不足、そして低い利益率である。
こうした解決策として、業界内外で注目を集めているのが建設DXだ。ゼンリンは、建設業界のデジタル変革で欠かせない、高精度で使い勝手の良い3D地図データや位置情報を通じて、DX実現を支援していこうと考えている。
3D地図データのメリットもさまざまなものがあるが、遠山氏は最も重要なのは「没入感のある体験を生み出すことにある」と強調する。なぜなら、より強い没入感による共通体験は、関係者間の「合意形成」を強力に後押しするからだ。
例をとると、コロナ禍の影響で急増したオンライン展示会やアバターを用いたオンライン会議、バーチャル店舗、3D都市モデルとしてのデジタルツインも有効な活用方法となる。こうしたヴァーチャル空間での没入感を与える上で不可欠なのが、現実空間のリアリティーであり、現実世界のリアル感があってはじめて仮想世界の没入感が増すというわけだ。仮想空間のリアルさには、ゼンリンの3D地図データが役立つ。
建設業界で浸透が進む、BIM/CIMでも、3Dモデルのベースとなる風景や周辺環境に3D地図データは使える。プレゼンテーションなどの合意形成の際には、リアリティー豊かな周辺環境を現実通り配置することで、施主や関係者の没入感が高まり、具体的なイメージを思い描ける。
近年は、3D地図データのメリットを生かすために、周辺のツール類の進化も著しく、これまでにない領域での活用が広がっている。一例として、Act-3DのRevitとArchiCADにも対応した建築レンダリングソフトウェア「Lumion(ルミオン)」は、3D地図データを簡単に取り込んで、高精細な照明やマテリアルの質感表現など演出効果を付与する建築ビジュアライゼーション制作を迅速に行える。また、アドバンスドナレッジ研究所の熱流体解析ツール「FlowDesigner」は、CADデータなどをインポートして風の流れをシミュレート。その結果をもとに、風を考慮した生かした風洞実験に代わる設計も可能だし、高架下などの空気の流れなども検討できる。
また、建築分野以外では、自動車業界でも、現実を模したドライブシミュレーションで3D地図データは欠かせないものとなっており、高速道路の白線を表示したり、道路周辺の建物群などでゼンリンのデータが採り入れられている。ここ数年では、エンタテイメント業界でも、VRゲームの舞台となる都市の背景CGとなったり、自治体での災害時の避難シミュレーションの可視化にあたり、3D地図データを用いたりすることも増えている。
最後に遠山氏は、ゼンリンの3D地図データとPLATEAUとの違いについて触れた。ゼンリンでは用途に合せ、3種の3D地図データを提供している。画像情報をベースに、現実の街並みを忠実に再現した「テクスチャ付きの3D都市モデルデータ」と、国土地理院の道路データとゼンリンの建物情報を組み合わせた「全国規模の広域3次元モデルデータ」。3つ目が、設計に使う2次元の平面データに、3Dデータをリンクさせた詳細なDXFデータ。
このうち、LOD1〜2の3D都市モデルデータについては、クラウドサービスを用いて誰でも容易にダウンロードして使える。一方で、PLATEAUデータとの違いは、提供範囲と更新頻度、道路表現の3点に相違点があるとのことだが、それぞれ一長一短がある。「使い手はその違いを見極め、用途に合せて良い所を組み合わせながら活用してほしい」と遠山氏は要望した。
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