電子申請のメリットについて、佐々木氏が一番に挙げたのは、「作業場所や時間に制限がない」という設計者側の利点。とにかく特定行政庁や指定確認検査機関に足を運んだり郵送する手間が無くなるため、その分の時間が削減される。以前は「申請を出しに行くと1時間かかる」という声も珍しくなかったから、電子申請は少なからぬ時間の節約になるわけだ。
また、送付作業も申請データが用意できれば、24時間いつでもどこからでも送れる。土日祝日でも深夜でも、申請側の都合の良い時に送れるわけで、もちろんテレワークで自宅から送ることも全く問題ない。
2番目のメリットは、「申請時の代理者にとっての作業負担の軽減」。例えば、図書の印刷が不要になるため、大量に出力していた設計者ほどメリットは大きい。構造計算書は分厚いものになりがちなので、出力・製本する必要が無くなれば構造設計者にとっては大歓迎だろう。その結果、プリンタも要らなくなれば、事務所を広く使えるようにもなる。
一方、申請作業の進捗管理も、各案件の進捗状況が共有されるようになる。その都度、電話して進行状況を確認する煩わしさは無くなるわけだ。また、確認申請書類の書式は毎年のように変更されるが、データを持っているシステム側で対応すれば済むという容易さもある。
最後に佐々木氏が挙げた電子申請の有用性は、「PDFなどの対応による効果」。申請がPDFなどで提出されることで、指定確認検査機関側は質疑対応の時間が抑えられるようになった。佐々木氏が勤務するJ建築検査センターでも、質疑内容を図面に直接記入するなど、申請者にとって見やすい/分かりやすい質疑を行うなどの工夫をしており、結果として手続き期間の短縮にも効果が現れている。
また、電子化以前は、申請図書自体を紛失する申請者も少なくなかったが、こうした紛失リスクもPDF化により大きく軽減。PDF化すれば申請図書もデータ化されるので、システム内に自ずと残るためだ。
もちろんメリットとともに、電子申請の課題も顕在化してきている。システムを使うためにユーザー登録が必要になるなど、システム操作が面倒だったり、副本を施主に渡すためにダウンロードして印刷するのが、まだ手間だという声もある。さらに最終ファイルの整理では、紙の場合は手書きで直していたような修正も、電子化以後はCADデータそのものを直さなければならず、手描きよりも工数が増えがち。こうした要望への対応が、電子化にとって今後の課題になるだろう。
「いずれにせよ、電子化ではコミュニケーションが最も大切だ」と佐々木氏は強調する。デジタルだからこそ、密なコミュニケーションが欠かせないのである。
2021年6月18日の政府による閣議決定では、オンライン利用率を大胆に引き上げる取り組みが決まっており、今後も確認申請業務に限らず、行政手続き全般の電子化が後押しされることは間違いない。「この機会に、ぜひ一度電子申請を試してみてほしい」と佐々木氏は呼びかけた。だが、「やはり難しいと感じる人がいるかもしれないが、現在の仕組みは、今後さまざまな部分で緩和が進んでいくのは確実だ。だから諦めずに挑戦してもらいたい」と語り、佐々木氏は講演を終えた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.