木造住宅の耐震性能を評価する場合、これまで、国内最大級の実験施設「実大三次元震動破壊実験施設(E−ディフェンス)」などの振動台で、実証試験を行わなければ、崩壊のメカニズムの分析が困難だった。そのため大規模な施設を使用する手間や多額の利用料により、多くの企業が、容易に検証に踏み切れなかった。この状況を2010年にリリースされたPC上で木造家屋の3Dモデルに地震のシミュレーションが行えるソフト「wallstat」が打破した。wallstatは現在、耐震等級の効き目や耐震性能などの“見える化”といった新たな活路を示している。
福井コンピュータアーキテクトは2019年9月10日、東京都渋谷区の渋谷ソラスタで、「耐震性能は“差別化”となるのか〜価格競争に陥らない自社ブランディングとは〜」と題した住宅ブランディングセミナーを開いた。
当日は、札幌、仙台、宇都宮、さいたま、新潟、長野、横浜、名古屋、福井、広島、福岡、熊本など、全国26の会場で同時配信された。セミナーは、福井コンピュータアーキテクトが「A-Style フォーラム」と称して、全国の建築事業者向けに年間を通して、開催するイベント。
今回は、当日のプログラムの中でも、多くの関心を集めた京都大学 生存圏研究所 準教授の中川貴文氏の講演「耐震性能は“差別化”となるのか? 耐震基準+アルファの見える化」を紹介する。
中川氏は、開発した木造住宅倒壊解析ソフト「wallstat」を用いたブランディング手法を提案。wallstatは、PC上で木造住宅の解析モデルに振動台実験のような地震振動を与えられ、損壊・倒壊の過程をアニメーションで確かめられるフリーソフト。2010年に公開され、2019年までの累計ダウンロード数は3万本を超え、2015年に「ARCHITREND ZERO(アーキトレンド ゼロ)」といったCADシステムとの連携機能を搭載し、2018年には 壁・接合部のパラメータなどを追加したVer4にアップデートしている。
セミナーでは、木造住宅の耐震等級や制震性能、構造計画における直下率と剛性バランスをwallstatにより可視化し、差別化を図る方法について説明した。
wallstatを活用した耐震等級のアピール術について、中川氏は、「耐震等級3は、壁量が耐震等級2の1.5倍あるが、どういった効果があるのかを施主に説明するのは難しい。そういった時に、例えば、耐震等級1と耐震等級3の3Dモデルをwallstat上で揺らし、損傷の違いを見せることで、優位性を示せば良い」と語った上で、耐震等級1と耐震等級3の3Dモデルが震度7の地震2回で、どの程度の被害を受けるかをwallstatで検証した動画を披露した。動画では、耐震等級1の3Dモデルの1階壁面が崩壊した一方、耐震等級3の3Dモデルは軽度なダメージで済んだ模様が映し出された。
制震性能のPRの仕方については、制震ダンパーのスペックをwallstatで視覚化することを訴求した。「wallstatは、家宅に備え付けられた全ての制震ダンパーのエネルギー吸収能力を評価可能なため、明確に制震ダンパーを装着していない住居との差を見せつけられる」(中川氏)。
また、wallstatで、制震ダンパーを1階に8枚、2階に4枚入れた耐震等級1の3Dモデルと取り付けていない同等級の3Dモデルに、震度7の地震を2回与えるシミュレーションを行った映像を流した。前者が軽い損害で済み、後者の1階の壁が全壊した結果を伝え、制震ダンパーを使った差異化の手法を解説した。
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