新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、工務店やビルダーでも、部材の納品遅延などによる施主からの契約打ち切りなど、今までに無い突発的なトラブルに巻き込まれる例が増えてきているという。匠総合法律事務所 秋野卓生氏は、住宅事業者向けオンラインセミナーで、コロナ禍にあって、事業を継続し、従業員を守るために、クレーム対応や契約解除などにどう対処すべきか、法律的な視点からの知見をレクチャーした。
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福井コンピュータアーキテクトは、工務店やビルダーを対象に、新型コロナウイルスに関するリスクヘッジを多面的に解説するオンラインセミナー「A-Styleフォーラム 2020〜新型コロナウイルスで露呈した工務店のリスク対策」を2020年6月16日に、東京都港区南青山一丁目の「MONSTER STUDIO 乃木坂」から配信した。
セミナーは、新型コロナウイルス感染防止の観点から事前登録によるオンライン形式で開催。講演者は、スライド画面を表示ながら進行し、終了時には聴講者から寄せられた質問に応える時間が設けられた。
本稿では、当日のセッションのうち、匠総合法律事務所 代表社員弁護士 秋野卓生氏による「今こそ危機から従業員を守る〜新型コロナウイルスが与える影響〜」と題した基調講演をレポートする。
新型コロナウイルスへの対処は、緊急事態宣言が解除された後も、多くの企業で懸案事項となっている。新型コロナウイルスによって下がってしまった消費マインドは、契約の解除や過度なクレームを引き起こす要因となり得る。また、ウイルスから従業員や顧客を守る手だても考えなくてはならない。匠総合法律事務所 秋野卓生氏の講演では、新型コロナウイルスが引き起こすさまざまな影響に対して、どのように対処すべきかを法律的な視点から紹介した。
秋野氏はまず、感染症対策を盛り込み2013年に施行した新型インフルエンザ対策などの特別措置法が「経営者にとっては対策するのが難しい法律」と前置きをした。そもそも、この法律は蔓延(まんえん)防止に向け、国民の努力義務を定めたものとなっている。事業者に対しても、協力する義務としているが、罰則を前提とした命令ではない。このため、「工務店経営者にとっては、住宅工事や各種イベント設営などに際し、どこまで人を集め、安全配慮義務と呼ばれる安全措置を講じるか、そのバランスをどう取るかをしっかり確認してもらいたい」と要望する。
安全配慮義務というのは、結果責任には当たらない。このため、安全措置を講じていれば、仮に感染者が出ても、即責任を問われることはないという。重要なのは、感染を回避するための措置が講じられていたか否かだ。
秋野氏は、人気ロックバンドの公演でステージに観客が押し寄せて観客が亡くなった事故を引用し、主催者側には観客に対し、安全に公演を観覧させる義務があったとして、損害賠償義務が認められた判決を紹介した。
イベント企画・設営・運営などを例にすると、感染を回避するためには、以下のような措置が考えられるという。
◆イベントを実施する場合に検討すべき措置
秋野氏は、「安全措置を講じておれば、仮に感染者が出たとしても責任を問われることはない」と強調した。
工務店の安全配慮義務は、顧客に対してだけでなく、従業員も該当する。秋野氏は、安全配慮義務の定義を「ある法律関係に基づき、特別な社会的接触の関係に入った当事者において、当該法律関係の付随義務として、当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務」と説明する。
労働契約上の労使間の関係では、“ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者”なので、従業員はもとより、建設現場における元請け/下請けの作業員などに対しても安全配慮義務が生じる。
秋野氏は、このところ急速に普及している在宅勤務も、従業員を新型コロナウイルスの感染リスクから守る活動の一つとみている。
新型コロナウイルスに対しては、免疫力を高めることで感染を回避できるという報道が見受けられる。もしそうであれば、顧客から暴言を吐かれるといった場面から、従業員を遠ざけることも、新型コロナウイルス対策に当たる。暴言や罵声などのカスタマーハラスメントは、従業員にとって大きなストレスになり、それによって免疫力が低下する恐れがあるからだ。
秋野氏は「ハラスメントは人権侵害」とし、企業経営者は過度なクレームや悪質なクレームから従業員を守ろうという視点で、組織力を持って対峙しなければならないと、その重要性を唱えた。
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