東急建設は、VOC(揮発性有機化合物)で汚染された地下水向けに、特殊薬剤を用いた「バイオスティミュレーション」技術を開発した。今後は、実工事への適用を図った後、より効率的な土壌地下水汚染対策技術として、土壌地下水汚染の原位置浄化が求められる各建設事業に対し提供する。
東急建設は、VOC(揮発性有機化合物)で汚染された地下水向けに、特殊薬剤を用いた「バイオスティミュレーション※1」技術を開発したことを2021年12月27日に発表した。
※1 バイオスティミュレーション:汚染地域に生息している土着微生物を活性化して、汚染物質の分解を促進させる手法
国内では、VOCで汚染された地下水の対策で、土着微生物の分解能力を活用するバイオスティミュレーション法がコストが低く、環境への負荷が少ないなどのメリットから原位置浄化※2として広く適用されている。
※2 原位置浄化:汚染された土壌や地下水を、その場(原位置)で浄化すること。掘削除去工事と比較し、安価で環境への影響が少なく、工場を操業しながら浄化対策できるメリットがある
しかし、従来の薬剤(水素供与体、以下、既存薬剤)を使用するバイオスティミュレーション法では、対象とするサイトの状況次第(pH、硫酸イオン濃度など)で、分解微生物の生育環境醸成に時間がかかり、浄化期間が長期化する場合があった。
そこで、東急建設は特殊薬剤を用いたバイオスティミュレーション技術を開発した。今回の技術は、塩素系のVOCを対象としたバイオスティミュレーションの課題(浄化期間、適用性など)に対し、対象エリアごとに変わる環境因子の調節に着目した。さらに、既存の薬剤に、微生物生育環境を早期に醸成させる補助薬剤を添加することで、浄化短縮を達成。
開発した技術の室内試験では、既存薬剤に補助薬剤(pH調整剤、補助栄養剤、硫酸イオン除去剤)を環境条件に応じて追加し、対象汚染エリアごとに異なる土壌地下水環境を嫌気性微生物※3の生育に適した条件に速やかに変化させ、分解を促進可能なことを確認した。
※3 嫌気性微生物:有機物の分解に関わる微生物の中で酸素を必要としない微生物
加えて、汚染サイトでの性能試験でも、補助薬剤を添加した特殊薬剤の使用では、既存薬剤に比べ分解が促進され、環境省が2017年度に公表した「低コスト・低負荷型土壌汚染調査対策技術検討調査」でも、特殊薬剤の分解を促進させる機能が評価された。
低コスト・低負荷型土壌汚染調査対策技術検討調査では、土壌を対象としたケースで、特殊薬剤を用いた浄化によるCO2排出量が、一般的な浄化工法である掘削除去工事と比較し、約88%少ないことが試算されている。
また、その後の実証試験では、汚染物質であるPCE※4濃度が約1リットル当たり1〜10ミリ(地下水環境基準で1リットル当たり0.01ミリ以下)の試料に対し、既存薬剤と比べ、PCEを含む分解生成物の分解効果が20〜40%あることが判明した。その他の分解生成物に関しても、特殊薬剤を用いた分解がより促進されることが分かった。
※4 PCE:「パークロロエチレン」のことで、ドライクリーニングや金属洗浄で一般的に用いられる化学溶剤「テトラクロロエチレン」の別名を指し、「発がん性の可能性」が報告されている
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