鹿島建設は、2重管構造となっている井戸の片方から地下水を吸水し、もう片方から薬剤を吐出して、隣り合う井戸でその逆を行う、VOCの汚染地下水を浄化する処理工法を実用化させた。今後は、全国各地で稼働中の工場敷地や再開発が計画されている工場跡地の浄化工事などに適用していく。
鹿島建設は、稼働中の工場敷地や工場跡地などで、揮発性有機化合物(VOC)で汚染された地下水を効率的に浄化する微生物処理工法「地下水サーキュレーターD3(ディースリー)」を開発した。
地下水サーキュレーターD3は、井戸の外管から循環ポンプで吸水した地下水に薬剤を添加して内管に送り、隣り合う井戸ではその逆を行う。循環井戸を複数本設置するため、人工的に井戸間の地下水を循環させられ、井戸から地盤に薬剤を広範囲に効率的かつ満遍なく供給して地下水を浄化することが可能になる。
新工法では、井戸の設置本数が従来工法に比べて少なくて済むので、コスト低減につながり、井戸の設置間隔を広くすることもできることから、稼働している工場建屋直下の地下水浄化も実現する。
VOCによる汚染地下水の浄化技術「微生物処理工法(嫌気性バイオスティミュレーション)」は、井戸から薬剤を注入し、地盤中に本来存在する嫌気性微生物を活性化させることで浄化させている。当然ながら、薬剤が嫌気性微生物に到達する必要があるが、注入するだけでは、地盤条件などにより薬剤を一定濃度で確実に行き渡らせられず、井戸を密に配置しなくてはならなかった。また、工場が稼働している敷地での浄化は、難しいとされていた。
さらに2017年の土壌汚染対策法改正で、VOCの一種であるクロロエチレンが新たに特定有害物質に追加され、これまでよりも浄化対象範囲が広がる可能性があるため、低コストでVOC汚染水を浄化するニーズは高まりつつある。
地下水サーキュレーターD3は、循環井戸の構造によって、同一井戸の周辺や隣接する井戸との間の地下水に、人工的な流れを発生させ、広範囲で安定的に薬剤を供給する。従来工法に比べ、地下水浄化による工場操業への影響も低減する。
検証実験は、2019年4〜9月に循環井戸1本で行い、24時間安定した流量での循環運転が可能なことや井戸から14メートル離れた地点でも、VOCが浄化されたことを確認した。今まで数メートルだった井戸間隔を最大28メートル離して設置できるため、注入のみによる工法と比較して約20%のコストダウンが試算されたという。
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