人と環境に優しい低VOC材、日本でLEED・WELLのクレジット取得率が低い理由基礎から学ぶ「グリーンビルディング認証」(4)(1/4 ページ)

建築物の環境性能を評価する認証制度には、さまざまな種類がある。その1つであり、国際的な認証制度として普及が進んでいるのが「LEED認証」だ。本連載では一般社団法人グリーン ビルディング ジャパンのメンバーが、こうしたLEEDをはじめとする「グリーンビルディング認証」の概要や、取得のための仕組みを解説する。第4回で最終回となる本稿では、LEEDおよびWELL認証における低VOC放散評価とGREENGUARD認証について解説する。

» 2017年05月22日 06時00分 公開

 一般社団法人グリーン ビルディング ジャパン(GBJ)注1のメンバーが「グリーンビルディング認証」について解説する本連載。第4回で最終回となる本稿では、LEEDおよびWELL認証における低VOC放散評価とGREENGUARD認証について解説する。

(注1)GBJ:一般社団法人グリーン ビルディング ジャパン。LEEDの主体団体であるU.S.グリーンビルディング協会(USGBC)と連携を取り、LEEDユーザーの立場で活動する、日本で唯一の団体である。グリーンビルディングに関わる立場として、建設・製造・不動産・コンサルティング・建築設計・ビル経営・試験評価と、幅広い業種が参加している。

VOCとは?

 第1回からの本連載を通して、同じグリーンビルディング認証であるLEEDとWELLは共通する評価項目が多い一方で、WELLでは「建物の中で人がどう過ごすか」をより重視した結果、評価指標の傾向や比重に違いがみられることはご理解いただけたと思う。

 その一例として、WELLでは7つある評価カテゴリーのうち、「Air」が全体の29%と、高配分であることが挙げられる[1]。そして特に興味深いのが、「VOC Reduction(VOC低減)」が、WELLの必須項目となっていることである。

 日本のLEED認証取得において、クレジット獲得率が特に低いと言われる「低VOC材の使用クレジット」を伸ばすには、どのような方法が考えられるのだろうか。低VOC材を手軽に調達したい施工主と、低VOC材を効率的に売り込みたいメーカー、双方の視点からその鍵を探る。

[1]第23回GBJセミナー【LEED Talk】「米国グリーンビルディング事情 V4、WELLからEcoDistrictまで」

低VOC建材と、LEED認証における加点

 VOCとは「揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)」の略称で、主に建材に使用される接着剤や塗料などから室内に放散されることでシックハウス症候群などの健康被害を引き起こすことが知られている。室内に放散されたVOCは換気によって外に追い出すことが出来る。しかしながら、VOCは一般に建材表面からじわじわと慢性的に放散され続けるため、換気環境下においても室内VOC濃度がゼロに至ることは難しく、長い期間を経てやっと一定の低い値に落ち着く傾向にある。室内のVOC濃度を低くする一番良い方法は、「そもそもVOC放散が多い建材を使用しない」ことである。よって近年では、水性の塗料・接着剤を使用するなど、工夫によってVOC含有が少なく放散量も少ない建材が多く開発されている。

 LEEDでも、「室内環境品質(Indoor Environmental Quality:EQ)」の評価分野の1つに、「低放散材料(Low-Emitting Materials)」として低VOC建材・家具を規定量以上利用することが評価項目に取り入れられている。LEEDの中では必須項目ではなく加点対象のクレジットで、加点は最大3点である(図1・2)[2]

[2] 加点の方法はLEED v4 BD+C, ID+C:“EQ Credit:Low-Emitting Materials”の記載にもとづく

Option 1:建材・家具の各使途の使用量における計算法を用いた加点

図1 建材・家具の各使途の使用量における計算法を用いた加点。医療設備・学校のみ、外装材も対象となる。複合木材についてはCA 01350ではなくCARB Ultra-Low-Emitting Formaldehyde (ULEF) もしくはExempt(=ホルムアルデヒド非添加)の基準を満たすことが求められる。(クリックで拡大)

Option2:建材の対象面積および家具の工事費用に対する割合の計算法を用いた加点

図2 建材の対象面積および家具の工事費用に対する割合の計算法を用いた加点。対象建材は床材、天井材、壁材、断熱材および遮音材、家具。医療設備・学校のみ、外装材も対象となる(クリックで拡大)

 さらにWELLでは、LEEDの「低放散材料」と試験方法や基準は同じまま、「VOC低減(VOC reduction)」は必須項目(Precondition項目)として設定されている。つまり、今後WELLでの認証取得を目指す限り、低VOC材の採用は避けては通れないと言える。

 ただ、日本国内におけるLEED認証取得の実例を振り返ると、この、「室内環境品質」評価分野でのクレジット取得率は低く、特に「低放散材料」では苦戦をすることが多いのが実状だ。旧版のv2009のクレジット獲得率で集計すると、床材0%、集成材11%、接着剤33%、塗料44%と、このクレジットの獲得率は他国のプロジェクトと比較しても大変低い[3]。このままでは、基準がさらに厳しくなったLEED最新バージョンのv4や、必須要求となるWELLにおいて、要求を満たす材料の調達ができるのか、より懸念される。

[3]第6回フェアウッド研究部会 講演「LEED、WELL 認証における室内環境評価について」より。日本国内のオフィス用途に限ったLEED NCまたはCS v2009のうち、認証取得時期が2013年12月〜2016年2月までのプロジェクトにおける統計。

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