国土交通省は、さまざまな自治体に都道府県や市町村などの関係者が一堂に会する「流域治水協議会」を設立し、流域治水協議会では、流域治水の情報を国民に発信する「流域治水プロジェクト」を2021年3月に策定した。また、政府では、流域治水の対策を円滑に行えるようにするため、「流域治水関連法」を2021年5月10日に公布し、一部を除き年内の施行を予定している。
国土交通省 水管理・国土保全局 河川計画課 課長補佐 寺尾直樹氏は2021年7月16日、「メンテナンス・レジリエンス OSAKA 2021」(会期:2021年7月14〜16日、インテックス大阪)の「コンストラクションステージ(1)」にオンラインで参加し、「近年の災害を踏まえた今後の水害対策について」と題した講演を行った。
講演では、自然災害の動向や事前防災の事例と効果、流域治水の概要、「特定都市河川浸水被害対策法などの一部を改正する法律(通称:流域治水関連法)」について紹介された。
国内では、急勾配な河川や海抜ゼロメートルの地帯が存在する他、氾濫危険水位を超過した河川が2014年と比較して2019年に約5倍になり、気候変動の影響で災害が激甚化している。さらに、全人口の約70%が自然災害でリスクのある地域に居住しており、危険な状況にある。
昨今の水害に関して、2018年7月には岡山県倉敷市の小田川で豪雨により浸水被害が生じ、2019年8月には佐賀県大町町の六角川周辺で浸水被害が発生した。寺尾氏は、「国土交通省では、1961年から水害による物的損害などの被害額を暦年単位でまとめているが、2019年の水害被害額は、全国で約2兆1800億円となり、2004年の被害額である約2兆200億円を上回った。内訳では、津波以外の水害被害額が統計開始以降で最大となり、2019年の東日本台風による被害額は1兆8800億円で、2018年7月の豪雨による被害額の約1兆2150億円を超えた」と話す。
続けて、「2019年の東日本台風では、福島県須賀川市の阿武隈川が決壊し、約114平方キロのエリアで浸水被害が起き、県内の沿川市では29人の死者がでて、1369棟の建物が倒壊した上、8444棟の建築物が大規模半壊および半壊した。こういった事態を防ぐためには河川にあらかじめ防災対策を講じなければならない」と補足した。
事前防災対策の有効性を示す事例として、寺尾氏は大阪府大阪市の大阪港と兵庫県神戸市で整備された砂防のケースを述べた。大阪港は、1961年に第2室戸台風により河川が決壊し、近隣の約13万戸が浸水した。その後、政府は、約1300億円をかけて、大阪港の海岸、河川堤防、水門を整備し、約200億円で適切な維持管理を行い、2018年に台風21号が直撃した際に、市街地への高潮浸水を完全に防ぎ、約17兆円の被害防止効果をもたらした。
兵庫県神戸市では、1938年7月の阪神大水害で死者と行方不明者が695人となり、直後に、政府は直轄の砂防事業により、被災地に集中的に545基の砂防堰堤(えんてい)を設けた。その結果、1938年の阪神大水害と同程度の雨が降った2018年7月の豪雨では、人的被害は発生せず、約2兆円と想定される被害を防いだ。
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