第6回 ジャパンビルド−建築の先端技術展− 特集

自然水害の最新動向や政府の防災対策と流域治水関連法の概要、国交省メンテナンス・レジリエンス OSAKA 2021(2/3 ページ)

» 2021年09月10日 07時00分 公開
[遠藤和宏BUILT]

流域治水を目的とした3つの対策

 セミナーの後半で、寺尾氏は、気候変動を踏まえた水害対策や流域治水の概要、流域治水関連法について触れた。

 国内では、1時間当たりの雨量が50ミリを超える短時間豪雨の発生件数が増加し、こうといった気候変動の影響で、水害の悪化が懸念されている。具体的には、1976〜1985年と比べて、2011〜2020年は1時間当たりの雨量が50ミリを超える短時間豪雨の発生件数が1.4倍に増えている。

国内の降雨量の推移

 「従来の水災対策は、施設能力を超える洪水が発生することを前提に、防災意識の醸成や設備と避難対策の強化を行ってきたが、現在の水害対策では、気候変動による降雨量の増加と潮位の上昇を加味して、防災計画を見直し、河川の流域全体を関係者が協働して治水する“流域治水”を実施している」(寺尾氏)。

政府が構想する流域治水のイメージ

 政府が構想する流域治水では、「氾濫をできるたけ防ぐ・減らすための対策」「被害対象を減少させるための対策」「被害の軽減、早期復旧・復興のための対策」を柱としている。

 氾濫をできるたけ防ぐ・減らすための対策には、河床を掘り下げて河川の断面積を大きくする「河床掘削」や堤防を移動して川幅を広げることで河川の断面積を広げる「引堤」、新しく水路を作り洪水を放水することで河川の流量を減らす「放水路の設置」、洪水の一部を貯留しピークの流量を削減する「洪水調節施設の配置」がある。

「河床掘削」「引堤」「放水路の設置」「洪水調節施設の配置」のイメージ
河床(河道)掘削や引堤などの導入事例

 洪水調節施設には、利水ダムや調整池、水田、浸透ます、浸透管がある。なかでも、利水ダムは、電力や農業用水向けの施設で、国内に900基あり、利水者の協力を得て、貯水を事前に放流することで洪水の際に水をためられる容量を確保できる。しかし、利水ダムの放流管は、発電や水田への補給に使用されることを前提に作られているため小規模で、事前放流が十分に行えないこともあり、今後、放流設備に改造を施す必要がある。

利水ダムの事前放流のイメージ

 被害対象を減少させるための対策では、対象地域における土地の利用状況を考慮し、一部地域の氾濫を許容した輪中堤※1を整備することで、効果的に家屋浸水を防止している。一例を挙げると、長野県中野市古牧地区の千曲川では、2019年に台風第19号が通過した時に、輪中堤を設置した集落は浸水を免れた。

※1 輪中堤:洪水調節の目的で堤防の一部を低くした堤防

 被害の軽減、早期復旧・復興のための対策では、住民への防災行動計画「マイ・タイムライン」の作成や不動産会社への物件提供時の水害リスク情報説明を推奨している他、国土交通省の緊急災害対策派遣隊「TEC-FORCE」による災害地の調査と情報発信を行っている。

 マイ・タイムラインは、台風の接近によって、河川の水位が上昇する際に、周辺の住民が家族構成や生活環境に合わせて、「いつ」「何をするのか」をあらかじめ時系列で整理した防災行動計画。洪水ハザードマップも併用することで、水害のリスクと求められる動きを把握しやすくなり、避難の実効性を高められる。国土交通省では今後、マイ・タイムラインを普及する自治体向けに、避難の効果を上げる手法をまとめた「実践ポイントブック」を作成し、配布する予定だ。

「マイ・タイムライン」のイメージ

 TEC-FORCEは、各地域の地方整備局に所属する職員が参加し、東北、関東、北陸地方の被災地で活動している組織で、2019年に台風第19号が茨城県日立市に直撃した際には道路施設の被災状況を調査した。

 また、国土交通省では、さまざまな自治体に、都道府県や市町村などの関係者が一堂に会する「流域治水協議会」を設立した。流域治水協議会では、流域治水の情報を国民に発信する「流域治水プロジェクト」を2021年3月に策定している。流域治水プロジェクトでは、全国に存在する109本の1級水系と12本の2級水系を策定し、さまざまな対策と実施主体の見える化や各水系の河川事業で要する事業費の明示、あらゆる関係者と協働する体制の構築を行っている。

「流域治水プロジェクト」のポイント

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