下記は、建設会社A社が社内整備したアカデミーのポイントである。
1.新入社員の垂直立ち上げを実現する『1000日マラソン』の設計
従来、入社後は簡易的な研修を経て支店・現場へ配属という流れがあったが、時間と意欲のある新入社員に対して良質なインプットを提供すべく、まず3年間は徹底的に知識やノウハウをインプットする期間として設計し、座学中心の対面講座を中心としたカリキュラムを構築。
2.研修施設の活用を視野に入れた『リアル×デジタル』の連動による学習カリキュラムの立案
現場での活動が多くなる入社4年目以降は、学ぶべき内容を自社のクラウドシステムへと移行し、いつでも・どこでも・何度でも学ぶことができる仕組みを構築。
また、クラウドシステムの受講に際しては、部門・年次によってクラス分けを実施し、割り当てられた全てのカリキュラムを受講することでアカデミーを『卒業』する運用としている。
将来的には全員が同じカリキュラムを受講することで学びの質が均一化され、拠点や現場毎の品質格差を是正することなどが期待されている。
3.業務遂行に必要なスキルを綿密に棚卸しし、学習の成果として反映できるスキルマップとして展開
教育内容の充実に加え、同社は社員の成長度合いを測定するべくスキルマップを整備。アカデミーでの学び(インプット)と現場での実践(アウトプット)によって習得されたスキルを見える化し、社員それぞれが成長度合いを確認できるツールとして活用するとともに、上長と課題点を共有することでさらなるスキルアップ計画立案の材料としている。
4.アカデミーの一環として全社一丸となった資格取得支援を実施
これまで同社では、報奨金制度などはあったものの、資格取得に向けた取り組みは個人の努力に依存していた。しかし、昨今の経営環境を鑑みると、経営事項審査や公共工事への入札資格という点で資格取得者増加は喫緊の課題であったため、アカデミーの一環として資格取得に向けた勉強会なども開始した。現在では、社内での模擬試験や論作文の添削など手厚いサポートを行っている。
アカデミーのポイントは、インプットだけではなく、その成果を「正当に評価する」ことで、効果測定システムと連動させることにある。教育によるインプットは目的ではなく、『研修(インプット)→業務(アウトプット)→評価→不足スキルに対するさらなるインプット』といった好循環サイクルを社内で構築することで、若手社員の成長が加速化するとともに、研修に対するモチベーション向上と自律的に学ぶ文化(ラーニングカルチャー)の醸成を実現する。
前述した通り、建設業をはじめとするモノづくりの現場で、「技術伝承」や「人材育成」は共通課題である。正しい技術伝承は固有技術の研鑽(けんさん)につながり、確かな差別化要因として自社の競争力を向上させる。また、前述したアカデミーなどの取り組みは、社内のレベルアップはもちろんのこと、採用活動にも大きな効果をもたらす。いまや企業は、いかに学生から”選ばれるか”という視点も持つ必要があるのではないだろうか。
しかしながら多くの企業において、この分野への取り組みは即時的な効果が見えづらく、優先順位が低くなる傾向にある。しかし、中長期的な視野に立脚すれば「人づくり」への取り組みは必要不可欠であり、今の取り組みが10年・20年先の貴社の根幹を支えるといっても過言ではない。タナベ経営では「経営者は望遠鏡と顕微鏡の両方を持て」と提言しているが、足元の対応とともに、10年・20年後の自社はどうあるべきかを考えた一手が、今求められているのではないだろうか。
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