【新連載】縮小する建設市場で新規需要を獲得するためのCRM戦略、建設専門コンサルが提言建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(1)(1/2 ページ)

本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第1回は、ドメインコンサルティング 東京本部 部長 兼 建設ソリューション研究会リーダー 石丸隆太氏が、人口減少と建築物の老朽化に直面する建設市場で、CRM戦略を見直し、アカウントマネジメントを実施することで、売上拡大と収益性の改善を図る術を提案する。

» 2021年06月07日 10時00分 公開

I.建設業におけるCRMを活用したアカウントマネジメント

 これまで建設業の各社では「顧客管理のためのCRM(Customer Relationship Management)」を実施してきた。企業のマーケティング活動で言えば、顧客を見つけ獲得し、自社のブランド力でつなぎ止め、顧客が自社に対するロイヤリティーを高めていくための仕組みを市場で築いていくことであり、そうした顧客中心主義に則(のっと)り、ビジネスの仕組みを構築するのがCRM戦略である。

 CRM戦略の基本活動は、顧客との契約の履歴や施工時期、図面、与信情報ならびに顧客の属性(業種、与信、年商など)のデータを利用し、マーケットデータと掛け合わせて、ビジネス上の重要な示唆を得ることにある。

 とくに現在の建設業界は、2つの変化にぶつかっており、CRM戦略は非常に重要なポイントの1つとなる。その理由となる変化の1つは「人口減少」であり、数十年先を考えると間違いなく新規の建設需要が落ち込む要因である。2つ目は「建築物の老朽化」。橋梁(きょうりょう)の多くは、1950年〜1960年代に整備されたものであることから老朽化が差し迫った問題となっており、維持・補修の需要が増加している。

 これらの変化によって、これまでの「事後保全」から「予防保全」を重視する考え方に変わってきている。さらに国の推進も後押しとなり、スーパーゼネコンや中堅ゼネコンでは「PPP(Public Private Partnership)※1」や「PFI(Private Finance Initiative)※2」への取り組みを積極化させている。

※1 PPP:官民連携事業の総称で、公民が連携して公共事業や公的サービスを行うスキーム。PFIは、PPPの代表的な手法で、他に指定管理者等の制度の導入、包括的民間委託、民間事業者への公有地の貸し出しなどを含む

※2 PFI:民間の資金や経営能力、技術的能力を活用して、公共施設などの建設、維持管理、運営などを行う手法

図1:国交省所管分野における維持管理・更新費の推計 出典:国土交通省

 要するに、ロットを稼げる建物が減る局面に向かう中では、(1)維持補修の需要を獲得するための動きを加速化させること、(2)建物の経過管理を行い、建物をストックビジネスとして収益モデルを作っていくことの2点が重要だ。

 しかし、建築後の対応については、人的な問題や資金的な問題などもあり、全てを網羅することは不可能である。実際に、住宅メーカーの多くがアフターメンテナンスの対応を外注に任せていることに表れている。そのため、CRMによるアカウントマネジメント※3を実施していくことが非常に重要となる。

※3 アカウントマネジメント:自社にとって戦略的に重要な顧客を選定し、全社統一の方針に沿った活動を行うためのマネジメント戦略手法。顧客と自社のビジネスを成功に導くWin-Winの関係を構築することを意味する

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