【第3回】「背中を見ろ」では今の若手は育たない〜建設業界が理解すべき人材育成のキーサクセスファクター〜建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(3)(1/2 ページ)

本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第3回は、企業の持続的発展を支えるキーサクセスファクター(主要成功要因)と成り得る技術力を伝え、次の世代が吸収し、いち早く成長できる“仕組みづくり”の成功例を紹介する。

» 2021年07月27日 10時00分 公開

I.今、直視すべきは10年後のわが社の未来

 建設業において、”加速化するデジタルシフト”や”働き方改革”への対応と同等の経営課題として、「熟練技術の伝承」と「若手人材の早期育成・活躍の仕組み化」が挙げられる。これらは企業規模を問わず、全ての建設関連企業で共通する問題であり、多くの経営者が頭を悩ませているのではないだろうか。

 そもそも建設業や製造業を筆頭に「技術伝承」や「人材育成」の必要性が叫ばれ始めたのは、団塊世代の多くが定年を迎えた2007年頃であり、技術系労働者の一斉退職による技能伝承問題が懸念されたことがきっかけだった。当時は定年延長や再雇用制度の導入によって、多くの企業でこの問題は先送りとされ、一部大企業のみが現場作業のマニュアル化や映像化など、積極的な技能伝承策を講じたが、中堅・中小規模の建設会社では「当時からほとんど何も変わっておらず、技術者の高齢化だけが進んでいる状態」という企業が圧倒的多数であるというのが実態である。

 しかしながら、今後加速化が見込まれる少子高齢化や建設就業者数の減少は、現在進行形で深刻化する問題であり、業界として抜本的な改革に着手できなければ建設業に将来はないといっても過言ではない。

 タナベ経営では、企業の未来を診る中で、「1年先は決算書、3年先は商品(事業)、そして10年先は人材」であると提唱しているが、建設業のコア・コンピタンスである”技術力”を正しく伝承するとともに、次の世代がそれを吸収し、いち早く成長できる仕組みを構築することこそが、企業の持続的発展を支えるキーサクセスファクター(主要成功要因)であると言えよう。

”技術力”を正しく伝承し、次世代が吸収して成長できる仕組みづくりが企業の持続的発展を支えるキーサクセスファクターとなる Photo by Pixabay

II.人材力の基礎「3つの柱」をバランスよく習得させる『建設アカデミー』

 前項では技術伝承や人材育成の重要性について言及してきたが、両者はそれぞれ単体で捉えるのではなく、連動させることで効果を最大化するものである。さらに言えば、自社が伝承すべき技術を、「いつ・誰に・どのような形で伝え、習得させるか」を明確にすることがポイントであり、あるべき姿からのバックキャスティング思考で体系化することが必要となる。

 ここでは建設業において社内アカデミーを構築し、「専門技術の習得」はもちろんのこと、「人間力の向上」「資格取得支援」までを一気通貫で体系化した良好事例を紹介する。

 大阪府に本社を置く建設会社A社(年商160億円、従業員数約250人)は、全国5支店15営業所を展開する建設会社である。同社は高い技術力を武器に業界の“ファーストコールカンパニー(100年先も顧客から一番に声をかけていただける企業)”として着実な成長を遂げてきていたが、人材育成については拠点や現場でのOJT依存となっており、新入社員の成長スピードや質に差が出てしまうという課題を抱えていた。

 そうしたなかで、創立50周年記念事業として取り組んだ研修施設の設立を機に、研修施設の活用を含めた自社独自の教育体系を構築すべく、下記を重点に社内アカデミーの設立を推進。教育を外部に依存することなく、社員同士が教え・学び合うことができる学習プラットフォームの構築に取り組んでいる。ここでは社内アカデミー設立までの流れと、ポイントについて解説する。

 同社では社内アカデミーに向けた第1ステップとして、社内のハイパフォーマーを階層別(新人・若手・中堅・管理職)に抽出し、あるべき姿と現状のギャップや社員教育の問題点を明らかにしている。また、併せて、自社の組織特性や各種制度を定性・定量の両面から分析した上で目指すべきアカデミーの全体像を設計。それらをもとに、「求める人材像」の明確化や社員が「一人前」になるまでの成長ストーリーを設計し、一人一人の成長段階に応じた学習カリキュラムの構築に取り組んでいる。

一人前に向けた成長ストーリー設計のイメージ 出典:タナベ経営作成
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