以下、タナベ経営におけるコンサルティング事例をもとに、顧客データの蓄積と分析の観点から改修需要を獲得した地方ゼネコンのCRMを活用したアカウントマネジメントの取り組みを紹介する。
年間の売上高が数十億円で建築ならびに土木工事を営む地方ゼネコンA社は、公共工事による安定的な土木需要と民間建築需要を中心に事業活動を営んでおり、歴史も長く、地元では著名なゼネコンである。同社の地元マーケットでは、民間土木は舗装、水道工事、造成、法面工事が主体で需要が安定しているが、建築では製造業が中心であり、海外への移転や国内需要の低下によって新規工場の建設投資が減少している。さらに、他エリアのゼネコンも進出しており、新規の需要獲得が困難となっていた。
そこで、A社は、今後の戦略として、以前施工した工場や商業施設に注目し、補修などのアフター需要を意図的に取り組むために「CRMの構築」と「アカウントマネジメント」を実施した。もちろん、今まで維持・改修などの需要がすくい取れていなかったわけではないが、新築を優先で進めており、顧客から引き合いが来た場合に獲得できる程度であった。
体系図をベースに整理した情報は、過去の顧客情報(業種、業態、年商、代表者の年齢、会社の創業年数など)と過去の施工実績(図面、用途、着工金額、採算、築年数など)である。そして、A社の顧客管理体制を再度整備し、顧客管理専門組織を組成した。その上で、「改修のタイミングなのか」「業績は好調なのか」といった状況を把握し、建築物のライフサイクルに基づく課題も整理。かつ、営業担当者間でどのような情報を引き出してくるのかの目線合わせを行い、提案するソリューションを検討した。
また、過去の改修実績を整理すると、A社の場合は、築年数5〜10年と築年数30年で需要が生まれていたことが分かった。以上を踏まえて集中的に狙うべき顧客層をターゲティングし、徹底的に提案営業を展開。もともと施工実績もあり、かつ顧客接点というアドバンテージを有していたこともあり、改修需要を一定数確保した。加えて、ターゲットと課題を想定した改修の提案を行っていたことで、新規受注も副産物的に獲得し、結果として民間の新築建築受注も伸びた。
CRMは顧客情報を活用したアカウントマネジメントも可能であるし、サービスのレベルを上げるために活用することにも応じている。しかし、全ての顧客に「最高」を提供するのは「最適」ではない。今後、働き手の減少や需要構造の変化、働き方改革などへの対応を考えると、全てに「最高」なサービスよりも、「最適な顧客」に「最高のサービス」を念頭に、“より高いコストパフォーマンスを実現するためのCRMを活用する”という観点で取り組んでいくことも重要である。
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