ここ数年、ICTの著しい発展によって建設業界でも、その有効な活用方法が設計・施工・維持管理の各工程で検討され始めている。新たなソリューションを導入するには、さまざまな既存の障壁が立ちはだかり、ときには既存の業務形態を変革することも迫られる。ビジネスルールを抜本的に設計し直す「BPR(Business Process Re-engineering)」。建設業界で導入することによって何が変わり、そのためには何をすべきか、プロレド・パートナーズが数々の建設会社でBPRをコンサルしてきた実績をもとに、本連載で解説していく。
建設業界の国内需要は、東京五輪に向けた建設ラッシュや昨今の天災被害に伴う復旧・防災工事なども相まって、おおむね伸長傾向が続いている。
しかし、この状況を手放しで喜べない企業は多いのではないだろうか。就業者の減少や熟練工のリタイアに伴う慢性的な人手不足、そして技術技能継承の遅れに多くの企業が頭を抱えているためだ。熟練工の作業品質を保てなくなるこうした状況は、コストと時間のムダ・ロスに直結する。
加えて、海外の建設需要増加に伴う材料費の高騰、BCP(事業継続計画)に基づく分散購買なども重なって、完成工事高の伸長を上回る工事原価の負担に苦しむ企業は少なくない。工事原価は、5年前から平均で3.4ポイントも上昇しており、当社がこれまで支援してきた各企業も同様の悩みを抱えている(図1)。
これらの悩みは、もはや一企業だけで解決できるものではなく、当然ながら国も対策を急いでいる。例えば、国土交通省が主導している建設現場の生産性革命(i-Construction)がそうだ。
i-Constructionは、「ICTの全面的な活用」などの施策を建設現場に導入することによって建設現場における生産性を向上させ、魅力ある建設現場を目指す取り組みで、具体的には3次元データやロボットなどを駆使して技術集約型の最先端の工場へ転換させるものだ。既に土木工事では大きな成果を挙げており、他業種での成果も確認されていることから、建設業界全体に、“生産性革命”の勢いは伝播(でんぱ)している。
当社もこれまで「BIMデータを活用した施工図の自動作成」や「現場作業のロボット化」などを支援してきた経験から、生産性革命の理念やアプローチは間違いなく有効であり、建設業にとって革新的な取り組みであると認識している。しかし、この取り組みにもやはり課題はある。
一例として、どの企業でも投資費用や投資対効果が課題に挙がる。この課題には、建設業ならではの仕事の進め方が根底にある。建設現場では基本的に一国一城型で仕事が進められ、同じ時期に進む他工事案件と、人や物資などの資源をシェアすることが難しい。
大げさにいうと、年単位でみれば著しく稼働率の低いロボットを、工事案件ごとに何台も抱えるようなものだ。これでは余りにも費用のムダ・ロスが大きい。ICTやロボットは、開発から導入までの期間が長期化しやすいため、先行する資金面での不安から足踏みする企業も多い。
一方で、こういった類の問題はICTやロボットの採用が前提という点に留意しなければならない。ICTやロボットは、あくまでも手段であり、他にも解決策は無数に存在する。
加えて、ICTやロボットの導入には、踏んでおくべき手順がある。この手順を踏まないまま導入すると、開発費用や期間は膨張し、本来得られる効果まで激減してしまう。そのことを正しく認識している企業は意外に少ない。
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