では、物件数の前年同月比が最も増えたエリアはどこでしょう。図表4で上位エリアを見てみると、1位は「恵比寿・目黒・中目黒」、2位は「渋谷」でともに前年比200%超の募集数でした。
なお、東京20エリア全体の物件数増加率(141.2%)を上回っているのは6位の「上野・浅草」までで、上位エリアが全体の増加率をけん引していることが分かります。
そしてこれら増加率上位エリアは、渋谷を挟んで新宿から目黒にかけての山手線南西部に多いのが特徴的です(図表5)。
ご存じの通り、渋谷を中心としたエリアはIT系企業などに人気があります。企業の集積が進み、近年オフィス賃料の上昇幅が大きかったのですが、その一方で、これらIT系企業はテレワークへの移行も容易なので、オフィスが不要になると解約までの動きが早いという面があります。
都内でオフィスを扱う不動産会社に最近の話を聞くと、「テレワークなどにより事務所を縮小するケースが目立った(港区)」や「テレワークが増え、現在使用している物件の半分かそれ以下の広さで十分となったため10〜20坪で事務所移転を検討するケースが増えた(渋谷区)」「賃料が安いオフィスを探す方が増えた(新宿区)」などの声が目立ち、コロナ以降ニーズの変化がうかがえます。
コロナ禍で、オフィスの縮小や、より賃料の安い物件を求める動きが増えたことで、賃料の高いエリア(図表2)での募集物件数の増加につながったと考えられます。
空室が続く物件は、賃料を下げてでもテナントを確保したいという動きが出始め、その動きが大きくなると全体的な賃料低下につながる可能性もあります。引き続き今後の動きに注目です。
最後に、今回も地場の不動産仲介業の景況感※2を見ておきましょう。首都圏・近畿圏における10〜12月期の業況DIは、賃貸・売買ともに前期に続き上昇しました(図表6)。しかし、全体的に改善は小幅にとどまり、勢いを感じる回復には至っていません。
※2 アットホーム加盟店を対象に四半期ごとに実施している居住用不動産市場についてのアンケート「地場の不動産仲介業における景況感調査」より。都道府県知事免許を持ち、5年を超えて不動産仲介業に携わる店舗の経営層にインターネットで調査し回答を指数(DI)化。DI=50前年同期並みの業況とします
それでも首都圏の売買はコロナの影響を受ける前の20年1〜3月期の水準を上回りました。復調の背景には、首都圏郊外部における購入の活発化があります。不動産会社に話を聞くと、ファミリー層を中心に都内から郊外への住み替えが増え、テレワークのスペースを確保するため、戸建てなど広い家を求める傾向が強まった他、低金利のため賃貸派が購入にシフトするといった動きが目立つようです。
景況感も小規模オフィスの動向も、コロナ感染収束の状況によって変化する可能性があります。今後もさまざまな観点から不動産市場をお伝えしていきますのでご期待ください。
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