日立の考えるニューノーマルのパラダイムシフトとQoLを高めるビル空間の創造Hitachi Social Innovation Forum 2020 TOKYO ONLINE(2/3 ページ)

» 2021年01月06日 06時15分 公開
[川本鉄馬BUILT]

新しい時代に向けたパラダイムシフトが不可欠

モデレータを務めた日経BPコンサルティングの斎藤睦氏

 涌井氏は、アンケートが示すニューノーマルの実像に対し、「その方向に流されるのではなく、積極的に変えていくべきだ」と話す。そして、SDGsを例に「自身の行動原則やそれに基づいた社会的大変異を起こさなければ、持続的な未来の将来はない」と訴える。

 長年エレベーターの開発に携わる藤野氏も、今後どのようなサービスを提供していくのか、その時に生活の質(QoL)向上にどう貢献するかを今から検討していると口にした。

 これまで藤野氏は、多くの人をいかに速く輸送するか、決まった時間にいかに効率良くエレベーターを稼働させるかといった技術を追求してきた。中国・広州市の超高層ビル「広州周大福金融中心」に納入され、分速1260メートル(時速75・6キロ)で世界最速としてギネスに登録されたエレベーターも藤野氏が手掛けた。

 しかし、この製品開発の方向性は変化しつつあり、現に日立のエレベーターの中には朝と夕方で照明の色を変化させる製品も存在するという。朝は白色系のスッキリとした色で仕事のやる気を高め、退勤時は暖色系にして徐々にプライベートな時間に向かわせる。このようなやる気や気分の切り替えは、生活の質を向上させることにも役立つ。

 これからのライフスタイルは、限りなく多様化して最終的にはダイバーシティー化していくだろう。涌井氏は、多様化したニーズに機械やメカニズムがどうやって対応させていくのかが重要で、それはQoLを支える新しい叡智(えいち)になり得るとした。

 例えば、職場や自宅以外の働く場所として注目されている「サードプレース」は、第3の場所として、仕事と家庭の緩衝地帯、言い換えればバッファの時間を提供することにもなる。

 従来は、機能と用途を明確にして効率を上げることが重視されていた。しかし、今後は双方の関係が非常に緩くなることが予見される。涌井氏は、何かに触発されるようなケミストリーな状態を見出す、渾然一体(こんぜんいったい)の状況下で、都市はさらに変わっていくとの見通しを提言した。

感性価値の充実が幸福感につながる

 対談後半では、世の中の価値観が多様化している中で、求められる技術についても話題が及んだ。

日立製作所で長年エレベーターの開発に携わってきた藤野篤哉氏

 藤野氏は、空調を例に変化の方向性を示した。これまでは省エネのために換気を抑えて空調効率を上げていたが、現在は換気性能に重点が移ってきている。必然的に省エネの優先度が相対的に下がることになるが、このような社会の変化はこのコロナ禍だけではなく、これからも続くとする。藤野氏は「変化に追従できる柔軟なシステムやアップデートしていくシステム構成を提供していかなければならない」とし、それが最終的にQoLにもつながるとした。

 同氏は、社会イノベーションやスマートビルディングにも統括的な立場で関わっている。ビルの管理やセキュリティのシステムを意識せずにスムーズに使えることを目標としている。そのために、防犯カメラや各種センサーからの情報を解析し、利用者が考えていることを先回りして、提供することを目指している。

 涌井氏は、ニューノーマルにおける製品や技術の開発では、スムーズさと安全を追い求めるのは重要な意味があるとする。しかし、人間は生身であり、五感を持っている。そうした生身の人間が感じる感性の価値にフォーカスが当たり、この価値が豊かだと多幸感につながる社会が到来すると予言する。そして、実現に欠かせないのは“全体知”だという。

 システムを開発するエンジニアは、自分の領域の中で最高点を目指すべく技術を深堀りする。しかしそれは部分知に過ぎず、全体知に掛け戻した時に正当かどうかの疑問が残る。

 涌井氏が考える全体知とは、地球が持つ生命環境の容量を前提にし、そこからバックキャストしてさまざまな場面をシェアすることを指す。そこでは、多様な組み合わせをどれだけ提供できるかが問われる。

 藤野氏はこれに関し、「単純な数字の競争ではなく、顧客の気持ちをどう形にしていくかが課題」としながらも、「楽しいチャレンジでもある」と語った。

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