大林組と慶應義塾大学は、オペレーターが建設重機の触覚を得ながら作業できる力触覚を再現する技術「リアルハプティクス」を開発した。
大林組は、慶應義塾大学と共同で、建設重機のオペレーターが重機の先端部が触れた物体の力や動き、触覚を得ながら作業できる力触覚を再現する技術「リアルハプティクス」を開発し、油圧駆動の重機に適用して性能・作業性を実証した。
リアルハプティクスは、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートの大西公平特任教授が発明した現実の物体や周辺環境との接触情報を双方向で伝送し、力触覚を再現する技術。人間が物体に触った際に感じる硬さや柔らかさ、弾力、自律的な動きなどの力触覚を伝送することで、遠隔にいる操作者の手元で同様の力触覚を再現する。他の触覚技術と異なり、機械駆動部が受ける反力を利用するため、触覚を検知するセンサーが極めて少なくて済み、過酷な外部環境にも適している。
新開発のシステムでは、操作側と駆動側の「力の倍率」や「距離の倍率」を任意に設定でき、操作側の手元の小さい力やわずかな動きでも、駆動側は数倍の力で大きく稼働させられる。屋外環境で重量物を扱う建設重機との親和性が高く、オペレーターの安全性と効率の向上が期待でき、大林組と慶應義塾大学(理工学部システムデザイン工学科専任講師 野崎貴裕、グローバルリサーチインスティテュートハプティクス研究センター)は、2018年に油圧駆動制御に適したアルゴリズムをシステム化した。
開発したシステムを油圧ショベルの実機に適用した実証実験では、実機の操作性を考慮し、操作側にはレバー型とグローブ型の2種類の装置を開発。レバー型は、オペレーターが力触角を感じながら最適な力加減で建設資材を把持するだけでなく、把持した力加減を維持できる機能を持たせた。グローブ型は、ロボットの遠隔操作に用いる装置を使用し、手の動きと実機のグラップルの動きが同期するため、重機の操縦に慣れていない作業員でも感覚的に操作できる利点がある。
実験では、駆動側となる重機の先端に取り付けるアタッチメント「グラップル」を装着した油圧ショベルに、「力の倍率」を2000倍、「距離の倍率」を16倍と設定して、グラップルを稼働させた。その結果、厚さ0.5ミリの薄肉鋼管、H形鋼や木材など物性の違う10種類の建設資材に対し、いずれもオペレーターの手元で力触覚を再現でき、非常に変形しやすい薄肉鋼管でもつぶすことなく把持しながら運ぶことが実現した。
また、操作側の指示に対する駆動側の位置・加速度・力の3要素を計測して、数値比較することで、設定した倍率通りに稼働していることを定量的にも確認した。
リアルハプティクスが無い状態でも、同様の操作を実施したところ、試験体が変形しないように視覚で確認しながら少しずつ握ると時間がかかるなど、力触覚を感じることによる作業効率の向上が認められた。加えて、既存の油圧駆動の重機に後からシステムを搭載することで、導入のための費用や期間が抑えられることも証明されている。
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