米国の最新現場に見る、テクノロジーで変革する建設業の今BIMで変わる建設業の未来(3)(2/3 ページ)

» 2016年12月19日 06時00分 公開

建設における標準整備

 変革が求められているのはもちろん建築家だけではない。建設現場においてもICT活用の波が広がっている。従来の建設現場においては施工者の職人技とも言える知識と経験に基づいて、紙の図面による伝達手段が重視されてきた。確かに紙の図面にも便利な点は多い。その一方で、最新情報への更新、変更の記録と管理、携帯性や安全性の面では限界もある。

 また、職人級の人材の高齢化、若手の技術者の育成という面でもさまざまな課題があるだろう。昨今の建設ブームによる人材の不足、人件費の高騰も忘れてはならない。そのような現実の中、特に日本ではICTを活用した建設現場の活性化と効率化など、標準の整備が一刻を争う課題となっている。

 Davis Constructionは、ワシントンD.C.に本社を置く400人ほどの施工会社だ。BIMやVC(バーチャル・コンストラクション)など最新テクノロジーを積極的に活用している。米国の「National BIM Guideline」やペンシルバニア大学のBIMプロジェクト実行計画書を参考に、同社独自のBIMガイドラインを制定している。

 例えば、現在建設中の米国大手銀行Capital One社の本社ビルは、高さ140m、地上32階建、8万7000平米のプロジェクトで、ワシントンD.C.近辺では「ワシントン記念碑」(170m)に続く最高層の建物になる。この施工現場では、建設現場でよく見かける「JOBOX」を改良し、Wi-Fi接続されたBIMワークステーションを収納している。これにより、各フロアでBIMデータを直接操作でき、事務所に戻ることなく最新計画を確認できる環境を構築している。

 また、Eyrus社の無線システムと、「スマートハット」と呼ばれるRFID(Radio Frequency IDentification)チップが内蔵されたヘルメットを活用し、BIMデータと連動させて従業員の作業場所を管理し安全性を高めるなど、テクノロジー活用に余念がない。プロジェクトマネージャーのエリック・フェダー氏は「Davis社の8〜9割のプロジェクトでBIMが標準活用されている。次の課題は施主を巻き込んだBIMデータのFM(ファシリティマネジメント)への活用だ」と述べる。

建設現場においてICTを積極的に活用し標準整備を目指すDavis Construction(クリックで拡大)出典:オートデスク

施主の意識改革

 確かに建設プロジェクトにおいては、設計・施工だけでなく、依頼主である施主の意識も非常に重要だ。米国では、「建設プロジェクトの最大のリスクはオーナーだ」といわれているという。施主による安易な設計変更がプロジェクトの遅延の原因となり、最終的にはコストの上昇につながるからだ。

 また、十分な設計検討が行われないまま施工が始まると、現場からの「情報提供依頼書」(RFI)がコストとして計上され、施主や設計者、施工者間での訴訟につながるという、米国ならではの社会構造もある。施主に対しても、建設プロジェクトの初期の段階で設計者や施工者とリスクやコストを共有するといった意識が求められるのだ。次に紹介する米国のSutter Health社は、そうした意識改革に成功した先進的な施主と言える。

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